僕にとってカップラーメンはドラマチックな存在だ。
中学生の頃、家から電車で20分ほどのところにある学習塾に通っていた時、地域が違うこともあってその塾には知らない中学校の子たちも多く通っていた。
そもそも勉強が嫌いで塾に通うことにも前向きになれなかった僕は、塾クラスでもあまり馴染めず、授業の休み時間中も楽しげに盛り上がっている別の中学の子たちを遠くの席から眺めながら、いつも淡々と授業を受けていた。
ある日、いつものように塾での授業が終わり、ずっしりと重たいテキストと問題集をリュックに入れ「あー今日もつまんなかったなー」と、なぜ受験をする必要があるのか、なぜ勉強をしなくちゃいけないのか、
よく分からないままその日も塾から帰りの道を歩いていると、駅へ向かう途中のコンビニの角で何やら笑い声が聞こえてきた。
何だろう思いコンビニ脇の非常階段らしきところに目をやると、塾の休み時間中にやけに盛り上がっていた、別の中学の子達がコンビニで買った肉まんやカップ麺を食べながらきゃっきゃと騒いでいる。
うわ! 同じクラスのやつらだ……と一瞬目がクワッと開いたが、ほとんど話したこともないし、変に目をつけられるのも嫌だった自分はすぐにその場から立ち去ろうとした。
すると
「中山じゃん」
と非常階段に座っている一人が僕に気づき声をかけてきた。
思わぬ声がけに、ギクッ!とまさに漫画的な動揺をした僕は、とっさにサッと振り返り
「お、おう!」と少しテンション高めに返事を返す。
そして続けて「こんなとこで何やってるの?」と僕が聞くと
「俺らここでいつも塾の帰りに話してるんだよね」と彼は答えた。
そして
「食う?」
といって彼は手に持っていた食べかけのサッポロ一番を僕に差し出してきたのだ。
僕は突然の出来事にかなりびっくりしたが、「ありがとう」と言って重いリュックを背負ったまま、非常階段に座り一口、渡されたサッポロ一番を食べた。
その味は37歳になった今でも、たまに当時の景色を思い出すほどに感動的な美味しさだった。
そんなふとしたきっかけでカップラーメンの盃をもらった僕はそれ以降、話せずにいた子達とも次第に仲良くなり毎回塾の帰りにはコンビニ脇の非常階段でカップラーメンをすすりながら、勉強とは全く関係のないゲームの話や漫画の話で盛りあがるようになった。
そして当然のごとく、受験には失敗した。
「美味しさ」は何を食べるかではなく、誰と食べるかで決まると思う。