僕はデパートやスーパー、商業施設で流れている何気ないBGMが好きだ。

どこかで聞いたことがあるような気がするけど実のところ誰も詳細がわからない、匿名性のあるその音楽はそれらを総称して“エレベーターミュージック”とも呼ばれているらしい。

この環境音に限りなく近い黒子のようなBGMはとても魅力的で、是非ともエッセイを通してみんなにも伝えたいところだが、今回ここで書くのは“エレベーターミュージック”とは逆の、僕が普段から出会うたびにモヤモヤしているBGMについてだ。

それは一体何かというと、有名J-POPのカバー曲のことである。

「?」と思う人もきっと多いだろう。そもそもJ-POPのカバー曲は何も悪くはない。

じゃあなぜそんなことをいうかというと、特定のシチュエーションになった時に絶妙にモヤモヤする時があるからだ。

例えば、以前マッサージ店に行った時。

マッサージ師に案内され1人部屋でうつ伏せになりながら待っていると、うっすら聞こえてきたのがSMAPのヒットソング集 オルゴールverだった。

「……」

おそらく安眠効果やリラックスさせるためにオルゴールver.をお届けしてくれていると思うのだが、例えばSMAPの曲「夜空ノムコウ」や「らいおんハート」などのしっとりとしたバラード曲ならまだいい。だが「青いイナズマ」や「SHAKE」だった場合はどうだ。優しいオルゴールの旋律とともにめちゃくちゃスローテンポになった「青いイナズマ」の音色は施術中の僕を踊らせたいのか、それとも眠らせたいのか……実にモヤモヤする。

「ああ!! ハッキリしてくれ!」と僕は穴の空いたベッドに顔を突っ込みながら嘆いた。

同じくまた別の場所でもモヤモヤするシチュエーションが。その日は渋谷での仕事帰りでラーメンでも食べようとひとり、チェーン系の中華料理屋に立ち寄ったのだが、入り口で出迎えてくれた店の人にカウンターへ案内され、メニューを見ていると、マッサージ店と同様にまたJ-POPのカバーBGMがうっすらと聞こえてくる。

ただ今回はオルゴールではなく、琴のようなアジアンな弦楽器で演奏されたバージョンで、ちょうどその時は宇多田ヒカルの「Automatic」が流れていた。

「宇多田ヒカルのAutomatic(琴演奏ver.)……」

僕は中華そばを注文し、メニューをパタンと閉じる。

「……」

おそらく中華料理屋ということでアジア的な演出として、琴演奏ver.をチョイスしたと思うのだが、なぜわざわざJ-POPなのか。

いっそのこと女子十二楽坊じゃダメなのか。欧陽菲菲でいいじゃあないか。そもそも琴演奏ver.にするくらいなら原曲「Automatic」を流してくれた方がいいんじゃないか……とか色々モヤモヤを抱えながら考えを巡らせてしまう。

そうして実に無駄な思考を巡らせているうちに、お店が渋谷ということもあってか気づけば僕の両隣のカウンター席には外国人が座っており、赤いカウンターの中華的内装のなかで、宇多田ヒカルの「Automatic(琴演奏ver.)」を聴く自分。トドメにはその宇多田ヒカルの「Automatic(琴演奏ver.)」の音色を打ち消すように謎のビート音を鳴らしながら「お待たせしましたニャ!」と中華そばを持ってくる配膳猫ロボット。

「……俺は一体どこで何をしているのだ……!」

と、僕は一瞬自我が崩れそうになった。

なんなんだこの世界は! 助けてくれ!

巨大なモヤモヤを抱きながら、僕は配膳猫ロボから熱々の中華そばを受け取り、ぎりぎりで自我を保ちながら無言でラーメンをすする。

とはいえ、正直ここまで濃厚なモヤモヤ世界に身を置くと、それはそれでなんとも分別できない摩訶不思議ワールドに迷い込んだ気持ちにもなって、ちょっと楽しかったりもした。

きっと僕が配膳猫ロボットに「なにがIt’s automaticじゃ!」とツッコミをいれても猫ロボは

「……ごゆっくりにゃ!」

とただ笑顔で去っていくのみだろう。

みなさんも、もし街の中でJ-POPカバーBGMとモヤつくシチュエーションに出会ったら、是非耳を傾けながら不思議なモヤモヤを味わって欲しい。

中山信一

中山信一

イラストレーター、ラッパー
1986年 神奈川県生まれ。広告や書籍、アパレルグッズ、絵本などのイラストを手がける他、個展などで作家としても活動。またHIPHOPユニット「中小企業」のラッパーとしても活動しており、2021年7月に初のソロアルバム「Care」をリリース。東京造形大学 非常勤講師。