日々のはなし

18 全国高等学校クイズ選手権

中山信一

暑い……暑すぎる。自分は季節の中で夏が一番なのだが、近年の酷暑には流石にウンザリしている今日この頃。

思えば自分の少年、青年時代の夏の記憶といえば、ほどよく爽やかな暑さの中、友達と市民プールに行き、安めの自販機でロング缶の三ツ矢サイダーを飲んで自転車で帰宅した後、夕方にテレビで放送されていた「欽ちゃんの仮装大賞」を観て「ハハハ」と笑っていたくらいで、熱血甲子園球児のような濃厚な青春物語とは無縁の人間だった。

そんな自分でも唯一、青春ぽいというか学生らしい思い出として記憶に残っているのが、高校2年生の夏だ。

当時東京の高校に通っていた自分は夏休み前のある日、授業終わりに帰りの支度をしていると、同じクラスの友達から突然

「なあ、一緒に高校生クイズ出ない?」

と声をかけられた。

高校生クイズとは当時テレビで盛り上がっていた(いまも毎年開催されている)全国にいるクイズ好き高校生を集めて日本一を決める、日本テレビ主催の「全国高等学校クイズ選手権」のことだ。

自分「高校生クイズ……ってあのテレビでやってるやつ?」

友達「そうそう、3人チームで出場エントリーできるみたいなんだけど、一緒にやろうよ」

自分「でも、俺全然クイズとか知らないよ? 雑学も知らないし」

友達「うん、俺も」

自分「……」

という感じで、友達はただ一夏の思い出作りに僕を高校生クイズに誘ってきたわけだ。

唐突な誘いではあったものの、僕も「テレビに出られるかも……有名になっちゃうかも……」と、ついミーハー心と楽観的な思考で

「まあ夏休み暇だし、いいよ」

と、二つ返事で参加することを決定した。その後、同じようにクイズに全く興味がないもうひとりの友達も強引に誘い込み、ここにクイズに全く興味もなくレベルも意識も非常に低い、謎のクイズチームが爆誕したのだ。

思わぬ誘いから始まった高校生クイズ選手権への参戦。とはいっても僕らはおそらく参加者の中でもトップクラスにレベルの低いチームなわけで、そこから特にクイズの予習をする訳でも、集まって作戦会議をする訳でもなく、一通りエントリーを済ませた後、

友達A「じゃあ、あとは当日現地集合で」

自分「オッケー」

友達B「うっす~」

という熱血とはほど遠い、実にさっぱりとした温度感で夏休みの高校生クイズ選手権本番を迎えることになった。

本番当日、当時の全国高等学校クイズ選手権(関東予選大会)は東京ドームで開催されており、僕ら3人は現地に到着し、その会場の大掛かりなセットや参加する高校生の多さ、熱気にかなりたじろいていた。

友達A「なんかすごいな……」

自分「めっちゃいる……」

友達B「みんな賢そう……」

お気楽な気持ちで会場に来てしまった我々の隣では、お揃いの衣装を着て入念にクイズを予習するチームや、気合の入ったチームが「早くクイズを! 問をだせ!」と言わんばかりに鼻息を荒くして予選開始の案内を待ちわびている。そうこうしているうちに会場にアナウンスが流れ、東京ドームの門が開きついに予選がスタート。

アナウンサーの高らかな声とともに関東予選大会の幕が開ける。

アナウンサー「クイズ日本一になりたいかー!!」

参加者「おおおーーーー!!!」

と大きな歓声が会場を包んだ。僕らも一応「おおお~」と弱々しくながらも声を発して場違い感を紛らわしていると、ついに第一問目が出題された。

エッセイを読んでいる皆さんに、ここで当時の問題を正確に伝えたかったのだが、なんせ22年くらい前の話。残念ながらネットでも当時の問題は見つからなかったが、記憶では確か松井秀喜のホームラン数に関係するクイズだったはずだ。つまりめちゃくちゃ専門知識が必要なもので、野球マニアでもない限り答えがわからないような問題だったのだ。

「……ええ、知らないよそんなの」と、問題を見て呆然と立ち尽くす我々。周りの高校生チームも1問目からあまりの難易度にどよめきが起こっていた。

ちなみに回答形式はマルバツの二択クイズで、それぞれのチームがマルかバツか、正解だと思うエリアに移動して答える仕組みだ。つまり2分の1でも当たる可能性はあるわけで、問題を前に僕らも一応あーだこーだと浅い知識で議論を交わしたり、かしこげに頭を悩ませてみた。

そして話し合った結果、我々3人が最も答えに近づけそうだと編み出した方法

“なんとなく賢そうな奴についていく”

という、クイズ回答者として最もダサい方法で、僕らはコソコソとマルのエリアに向かったのだった。

「みんな賢そうだし、きっとマルだよ」という思考自体がもう賢くない。その後も“ 大丈夫……! だって周りに賢そうなやついっぱいいるから!”と完全にずれた祈りをしながら正解を待っていると、アナウンサーが

「さあ、運命の二択、君たちはわかったかなー? 正解は……これだーーーー!!!!」

と言って東京ドームにある巨大モニターを指差した。会場のどよめきがピタッとおさまり、一斉に巨大モニターを見る……そしてそこには大きく「バツ」のマークが。

アナウンサー「答えはバツだぁーーー!!!!」

会場「うおおおおーー!!」

我々「……」

僕らは第一問目にして見事に不正解。そしてあっという間に退場を命ぜられ、東京ドームから最速で弾き出されてしまった。

我々「……終わるの早っ!」

3人で顔を見合わせながら、東京ドームの外でガックリと肩を落とす。ドームからは正解した高校生たちの歓声が、鳴り止まずに外まで響いていた。その後、予定よりも大幅に早く終わってしまった夏のイベントをどうにかしたいと考えた僕らは、せめてもの思い出として3人で渋谷の美味しいラーメン屋に行くことに。

友達A「あ~ほんとなら夕方くらいまで白熱したクイズバトルしてたはずなんだけどな~」

自分「まあ、無理だよね普通に」

友達B「でも一問目からあれは難しすぎでしょ! おかしいって!」

終わることのない高校生クイズ選手権への愚痴を漏らしながら美味しいラーメンを食べる。

そしてラーメンを食べた後、店の前で

友達A「じゃあ、帰るか」

自分「そうだね」

友達B「帰ろ帰ろ」

と、昼過ぎにはラーメンの満腹感とともに僕らのクイズチームはあっさりと解散した。

熱血でもなければ清さも美しさもない、実にくだらない夏の一幕だった。けど友達と一緒に真夏の中、惨めったらしい敗北を味わうのもなんだか悪くはないな、と帰りの電車の中でちょっとだけ思った。

今年の夏は何かくだらないことでもしようと思う。

中山信一

中山信一

イラストレーター、ラッパー
1986年 神奈川県生まれ。広告や書籍、アパレルグッズ、絵本などのイラストを手がける他、個展などで作家としても活動。またHIPHOPユニット「中小企業」のラッパーとしても活動しており、2021年7月に初のソロアルバム「Care」をリリース。東京造形大学 非常勤講師。