先日、久しぶりに家族で旅行に出かけた。愛媛は松山の道後温泉に、飛行機で片道1時間半ほどの旅だった。

初めての松山はとても穏やかな街でとても良い家族時間だったのだが、今回の旅を経て改めて分かったことが一つある。それは「自分は飛行機があまり得意ではない」ということだ。

もちろん乗り物自体が嫌いというわけではない。むしろ飛行機にはロマンや風情を感じてとても好きだ。ただなにぶん心配性で怖がりな自分。どうにも「乗る」となると緊張が走るというか、いつも嫌な汗をかいてしまう。

「本当にこんな大きな鉄の塊が空を飛ぶのか……それも時速900kmとかで?……そんなバカな」

と、毎回古代人のように文明の発展を疑ってしまうし、ちょっとでも機体が揺れようもんなら

「これは……もう終わりかもしれない」

と、よからぬ妄想スイッチが入って、拳の中に汗が滲んでくる。

かと思えばCAさんから笑顔で渡されたリンゴジュースは、もらって早々にゴクゴクと飲み干し、目の前のモニターに映る最新映画を観ながら誰よりも号泣したりする自分もいて、我ながらなんとも単純でアホな生き物だな、と思ったりもする。

とはいえ、フライト中の飛行機が揺れたりするとその度に「ハッ!」と我にかえっては、再び不安な面持ちでCAさんの表情をじっと凝視したり、いらぬ心配が止まらなくなってしまうので、とにかく飛行機に乗っている間は色々と落ち着かない。

そして、ただ座っていただけなのに目的地に着く頃には、だいたいいつも疲弊してグッタリしているという始末。僕にとって飛行機は実に相性の悪い乗り物なのだ。

ずいぶん昔ではあるけれど、大学生の頃キューバに行ったことがある。成田空港からアメリカを経由し、飛行機を乗り換えてメキシコへ。その後メキシコから小型飛行機に乗り込み、キューバの首都ハバナへ向かう片道およそ25時間の道のり。

「遠い……」

乗っても乗っても目的地につかない。当然これまでの人生の中で最も長い空の旅だった。序盤の飛行機ではキューバへの好奇心やワクワクのおかげで、なんとか気持ちを保てたものの20時間を過ぎたころから、いよいよ疲れとともにあまり感じたことのない不安感が襲ってくる。

「こんなに飛行機に乗り続けて大丈夫なのか?」とか「ここはどこ? いま何時なんだ?」と、あまりに長すぎる移動距離に自ら旅立っておきながらソワソワしてしまい、当時は学生ということもあり日本に帰れるのか本当に心配になった。

なかでも最後にメキシコから乗った小型飛行機が強烈で、そもそも小さい飛行機というだけでこんなにも不安感を煽られるものか……と思ったし、その日のフライトは深夜。

暗闇の中、数人しかいない乗客と一緒に階段のようなタラップを上がり、僕は簡素な案内のもとそそくさと着席させられた。ほどなくして飛行機が動き出し離陸準備に入るのだが、これまた飛行機のエンジン音が、

飛行機「私、今頑張ってます! すごい頑張ってるよ!! ほら! エンジンめっちゃ回してますよー! うおおおお!!」

と、爆音かつ全く余裕のなさそうな音で、ますます緊張感が高まる。必死に頑張って飛ぼうとしている飛行機に乗る時ほど怖いものはない。

そして僕らを乗せた小さな飛行機は一生懸命感満載でリアリティたっぷりに僕たちの体をフワリと宙に浮かせ、なんとか深夜のメキシコを飛び立ったのだ。

機内では当然の如く日本の航空会社のようなサービスもなければ、映画を観るようなモニターもない。気を紛らわそうと隣の人と会話をしようにも、頼りなくも必死に飛ぶ飛行機の轟音が


飛行機「ボボボボボボボ!!! ほら! すごいでしょう!! 僕いま飛んでますよ! ほらぁ! ボボボボ!!!」


と常に耳に爆音をお届けしてくるため、周囲の音が全く聞こえず何の話もできない。

これまで22時間の長距離移動を済ませた後に、この機内でおよそ3時間。まさしく地獄のようなフライトに耐えて、ようやく僕は目的地であるキューバの首都ハバナに到着した。

長かった飛行機移動を乗り越えた喜びと、目の前に広がる南国キューバの景色に一通り感動しつつも、僕はそれと同じくらい、

「良かった……生きてる……」

と、謎の安堵感に包まれていた。その後ターミナルの窓越しに、疲れ果てたであろう自分が乗っていた小型飛行機に目をやり

「お前、良く頑張ってくれたな……ありがとうよ」

と労いを送りつつも、ふと帰りもコイツに乗らなければならないのかと思うと、だいぶ憂鬱になった。ともあれ長時間かけて到着したキューバは素晴らしいところだったし、気苦労した分、喜びも大きかったわけで一概に飛行機での旅が嫌なわけではない。

ただ、いまの自分には、あったかい湯に浸かりながら空をゆっくり飛ぶ飛行機を眺めるくらいがちょうどいいかもな、と松山の道後温泉にプカプカ浸かりながら思った。

中山信一

中山信一

イラストレーター、ラッパー
1986年 神奈川県生まれ。広告や書籍、アパレルグッズ、絵本などのイラストを手がける他、個展などで作家としても活動。またHIPHOPユニット「中小企業」のラッパーとしても活動しており、2021年7月に初のソロアルバム「Care」をリリース。東京造形大学 非常勤講師。