先月、急に肌寒くなったこともあってか、久しぶりに風邪をひいてしまった。
幸い症状も軽かったので1日〜2日程度で治るかと思い、仕事をしながら様子を見ていたのだが2、3日経っても咳がなかなか治らなかったので、
「まあ、一応行っておくか」と、平日の昼間に家の近くにある、かかりつけの小さな病院に行くことにした。
その病院は個人宅に併設されたいわゆる“町のお医者さん”的な病院で、近所ということもあり子供の予防接種や健康診断などで、いつもお世話になっている我が家にとっては非常にありがたい場所だ。
昼休み前に手ぶらでテクテクと病院に向かい、うぃ〜んと年季の入った自動ドアを抜けると、その日は受付の女性がいるだけで、診察を待っている人は誰もいなかった。患者さんがいない病院はとても静かだ。
僕は受付の女性に診察券を渡しながら簡単に症状を伝え、後ろにある待合室のソファに座ろうとすると、すぐさま
「中山さ〜ん」
と、奥の診察室から声がかかった。僕は「はーい」と返事をしてそのまま診察室に入り、いつもの先生に改めて風邪の症状を伝える。
先生「あ〜咳ね〜、今流行ってるからね〜喉の風邪」
自分「へ〜流行ってるんですね」
先生「そう、季節の変わり目だからね。じゃあちょっと喉、見せてね」
そう言うと先生は小さなライトを僕の口に向けてきた。
それに合わせて僕はパカっと口を開ける。
先生「ん〜そんな赤くはないね〜うん、はい。いいですよ〜」
自分「はい」
先生「喉はそんなに赤くないんだけどね。咳が長引くの流行ってるから、一応咳止めのお薬出しときますね。1週間分。それで様子見てください」
自分「わかりました。ありがとうございました〜」
先生「はい〜お大事に〜」
時間にして約5分ほどで診察は終了。その後、受付で薬も処方してもらい、僕はあっという間に家に帰ってきた。
「いや〜近くに病院があるって本当に助かるな」と、しみじみありがたみを感じながら、僕は早速処方された薬の錠剤を飲むことにした。
もらった薬は1日1回服用の小さな白い錠剤で、いわゆる一般的な咳止め薬。特に問題もないと思いつつも一応、薬と一緒に同封されていた説明書のようなものを読んでみる。
するとそこには、薬の効能「咳止め、喉の炎症の緩和」と、薬の詳細が記載されている欄があり、続いてその後に副作用の内容も記載されていた。
そして僕はその副作用の欄を読んで愕然とした。
薬の副作用「眠気、倦怠感、顔が丸くなる、吐き気など」
僕「……顔が丸くなる!?」
どうやらこの風邪薬は副作用で顔が丸くなるらしい。確かにそうはっきりと説明書に書いてある。
僕「顔が丸くなる……この錠剤を飲むと顔が丸く……」
すでに僕の頭の中には風船のように丸々と膨らんだ自分の顔が浮かんでいた。もちろんこれはきっと“顔がむくむ”という意味だな、ということくらいはわかっている。
しかしいざ薬を飲むとなると、この真面目な処方箋の説明書に書かれた「副作用:顔が丸くなる」は、じわじわと僕に謎の緊張感を与えてくる。
そして錠剤を手にした僕の脳内はすっかり「もし顔が丸くなったら……」という妄想で埋め尽くされてしまった。
顔が丸くなる、というのは一体どの程度のものなのか。徐々に丸くなるのか、それとも飲んですぐにボンッ!と球体になるのか。
もしくは1週間分の処方をされていることを考えると、1日目はあまり変化せず、3日目あたりになんとなく角が取れたような骨格になり、5日目には卵型っぽい形に変化し、最終的に7日目に完全なる球体へと変貌を遂げるのか。
当然、頭が丸くなった後も大変だろう。まず帽子やヘルメットはもうかぶれない。ただ球体の頂点にのせるだけだ。眠る時も首への負担が尋常ではないだろうし、頭をぶつけることも増える気がする。
ああ、実に生活しづらそうだ。そういえば、先生も咳が流行っていると言っていた。ということは、僕の他にもこの「顔が丸くなる薬」を処方されている人が大勢いるに違いない。
思えば、平日の昼間に患者さんが誰ひとりいなかったのも不自然だ。静かすぎる。おかしい。もしかしたら、もうすでに顔が丸くなった病人たちが沢山いて、丸くなった自分の顔に愕然として、みんな文字通り頭を抱えながら外に出られなくなっているかもしれない。ああ、まずい。これはまずいことになったぞ。
さながら僕の頭のなかは、『世にも奇妙な物語』(フジテレビ)の主人公の気分だった。
そしてそんな奇妙な妄想の行き着いた結末は
「顔が元に戻る薬を処方してもらう」だった。
ただその薬の説明書には「副作用:顔が三角になる」と記載されているのだ。
ああ……自分の元の顔には一体いつ戻ることができるのか……それは誰にもわからない。
と、ここまで妄想した後、やっと僕は我にかえりリビングに置いてあったコップの水とともに、錠剤をゴクリと飲み込んだ。
「ふう〜、仕事に戻ろ……ボンッ!!」










