日々のはなし

07 孤独なトイレダンス

中山信一

僕はトイレについてずっと気になっている、というかモヤモヤしていることが一つある。

これからそのモヤモヤについて綴ろうと思うのだが、はじめにお伝えしておくと今回は、というか今回も“別にたいした話”じゃない。

トイレについてのモヤモヤ。それは外出先のトイレで人が入ってきたのを認知して自動で電気がついたり消えたりする「人間認識センサー付きトイレ」にまつわることだ。

最近では図書館などの公共施設やショッピングモールでも、このセンサー付きトイレをよく見かける。

僕はこの「人間認識センサー付きトイレ」の特定の条件下で発生するあることにモヤついているわけだが、それは僕だけが一人、用をたすために個室トイレを利用しているとき、もしくは最初はトイレ内に数人いたが自分が用をたすために個室トイレに腰を下ろして、しばらくして一人になった時のはなし。

静かに用を足していると突然「カチ!」という音とともに、センサーがトイレ内に人間がいないとみなして勝手にトイレの電気を消してしまうことがある。

ちょっと悲しい。そう、ほんのちょっとだけ。

ただ別に電気を消されるくらい全く問題ないし、センサーに存在なきものと判断されて消灯されることにモヤついているわけじゃない。

モヤモヤしているのは、この後のはなしだ。

僕は唐突に暗くなったトイレの中で独りお尻を出しながら「自分いますよ~! 人間が一人おりますよ~」と懸命に手を振ったり、体や肩を揺らしながらセンサーに自分の存在をアピールして再び電気をつけてもらう、「孤独なダンスタイム」についてモヤついているのだ。

これはちょっと悲しい、じゃない。実に哀しい気がする。

しかもその滑稽な存在証明とも言えるトイレダンスをして電気がつき、ひと安心していると再びセンサーは数分もしないうちにまた

「ダレモイナイデスネ、ケシマス」

と、言わんばかりにカチっと無機質に電気をすぐ消してくる。

「くっ……またあの哀しいダンスをしなければいけないのか……」と尻を出しながら一人、再び暗闇の中で手と肩を揺らし、哀しいダンスを踊る自分。

なんなんだあの時間は!

ここで「もういっそ暗いままでいいじゃん」という、そこのあなた。確かにそうだ。

だがトイレで一人、真っ暗闇の中、用をたしおえるほど僕はクールな大人にはなれない。

はっきり言って、ちょっと怖い。ほんのちょっとだけどな。

怯えるほどではないけど、ちょっと怖い。

だから僕は“ちょっと怖いトイレ”よりも、自分が滑稽でも孤独なダンスを踊って“ちょっとアホみたいだけど、明るいトイレ”を選ぶ。

みなさんはどちらを選びますか。

いや、どちらを選んでいるのですか。

中山信一

中山信一

イラストレーター、ラッパー
1986年 神奈川県生まれ。広告や書籍、アパレルグッズ、絵本などのイラストを手がける他、個展などで作家としても活動。またHIPHOPユニット「中小企業」のラッパーとしても活動しており、2021年7月に初のソロアルバム「Care」をリリース。東京造形大学 非常勤講師。