「もうそろそろ2段ベッドが必要だね」
「そうね~今のベッドも結構狭いし、買っちゃおうか」
我が家には3歳と5歳の娘がいる。子供が小さかった頃はベッドを3台連結させて家族4人、川の字になって寝ていたのだが、子供たちの成長に伴い、ベッドで家族全員が寝るにはやや窮屈になってきた今年の夏。
僕と妻は思い切って子供用の2段ベッドを購入することにしたのだ。
大型家具店に行ったりネット情報をリサーチしたりして、目星をつけた子供用2段ベッドを早速注文。
数日後、大きな段ボールとともに届いたベッドを妻と2人でなんとか2時間かからない程度で組み立て終えた。
「ふう~やっとできた。おーいできたよ~」
リビングでアニメを見ながら待機していた子供たちに声をかけると、待ってましたとばかりにタッタッタと走ってやってきた2人は寝室に現れた高くそびえ立つ2段ベッドを見て
「うおおおーー! 2段ベッドだあ!!!」と大喜び。
「やったー!! 乗る~! 私、上ね!! ボフッボフッボフッ!」
と、5歳の上の娘はヒョヒョヒョイっと2段ベッドのハシゴを登り、ベッドの上で飛び跳ねながら大はしゃぎしている。
3歳の下の娘も新しいベッドが気に入ったようで、そこからしばらくの間、姉妹で歌を歌ったり踊ったりしながら、騒がしい“2段ベッド歓迎の儀”が執り行われた。
「まあ、とりあえず喜んでるならよかった」
と騒がしさを嗜めつつも、ホッと安心した僕ら。
その日から寝室は大人用ベッド2台と子供用2段ベッド1台となり、新しい編成での夜が始まることになった。
初日の夜、やはり子供たちは2段ベッドに興奮しきりで、特に上の娘は天井近くから僕らを見下ろすような高さのベッドにご機嫌の様子。
興奮でうまく寝付けない感じではあったが、しばらくして2人とも新しいベッドで無事眠りにつくことができた。
子供も喜んで寝てくれるし、我々夫婦のベッドスペースも広くなって、あ~良かった、めでたしめでたし、と思っていたわけだが2段ベッド生活が始まってから数日後、ちょっとした問題が発生した。
僕はいつも子供たちが寝た後に残っている仕事を片付けるため、子供たちの就寝時間に一度おやすみなさいの挨拶をしてから再び仕事場に戻る生活をしているのだが、その日もいつものように寝室での挨拶を終えた後、仕事場に戻りせっせと作業をしていると、夜10時頃にドアが「ギイ……」と開き2段ベッドの上で寝ているはずの5歳の娘が僕の部屋にやってきたのだ。
娘「2段ベッド……怖い……」
話を聞くと、どうやら最初のうちは高い場所での優越感に浸っていたものの、しばらく時が経って暗闇の中でひとりで寝るのが怖いと感じ始めたらしい。
まあ、気持ちはわかる。自分も小学生の頃、2段ベッドで寝ていたがひとりのベッド、特に上のベッドは孤独感もあり小さい子供にとっては意外と寂しさを覚えるものだ。
事情を聞いた僕はその後、妻も含めて娘をなんとか説得し、ぬいぐるみを与えたりしながらその日はなんとか2段ベッドで寝かすことができた。
「ふう~……」と胸を撫で下ろしたのも束の間。
次の日の夜、同じように子供たちと就寝の挨拶をし作業部屋でひとり仕事を片付けた後、夜12時頃に疲れた身体を休めようと寝室にそっと入ると、2段ベッド上段で寝ているはずの上の娘がいない。
「ん?」と少し慌てつつも、スマホのライトで暗がりの寝室を照らしてみると、そこには2段ベッドにいるはずの上の娘が僕のベッドでスヤスヤと寝ているではないか。
「……」
起こすわけにもいかないし、寝たまま2段ベッドに上げるのも危ないし……空いているベッドといえば、子供用の2段ベッド(上段)しかない。
僕は一旦リビングに戻ることにした。
そして棚から購入したばかりの子供用2段ベッドの説明書を取り出す。
「耐荷重、耐荷重……あった。」
耐荷重は200kgまでと書いてある。
「ほんとに……?」
2段ベッドで大人が寝ていいものか、説明書を見る限り、構造上は問題なさそうではあるがなんとも気が引ける。
とはいえ他に寝る場所もないし、僕だってしっかり睡眠を取りたい。夜中12時を過ぎて僕はひとりソワソワしていた。
そんな中、寝室を行ったり来たりして悩んでいたせいか、妻が起きてしまった。そして隣で熟睡している娘を見たあと、空いている2段ベッド上段を確認し
「……大丈夫でしょ」と一言。
僕は覚悟を決めた。
「行くか……」
そうして僕は意を決して子供用の可愛いハシゴに足をかけ、上のベッドに向かうことに。
ギイギイと音を立てて、一歩ずつハシゴを登ると、そこにはピンクの毛布と可愛いぬいぐるみたちが待っていた。
「……」
僕はそっとぬいぐるみたちを脇に寄せてベッドに横になる。
ぬいぐるみたちも5歳の女の子が登ってくると思ったら38歳のおっさんが登ってきたのだから、さぞかし残念に思っただろう。
「すまんな……」
こちらをじっと見つめる、ぬいぐるみたちに詫びを入れながら、そっと目を閉じる。
そうしてしっかり横になって寝てみると、当然ながら大人の自分の全身が子供用ベッドにおさまるわけもなく、
くるぶしから足の先がベッドからはみ出した状態となった。加えて寝返りを打つたびにギイギイと軋むベッド。
「200kg……ほんとに?」
心配性の僕は耐荷重然り、寝心地然り、ぬいぐるみの眼差し然り、色々な事が気になってしまい、結局その日はうまく眠る事ができなかった。
翌日、目が覚めると僕のベッドを横取りした5歳の娘がこちらを見ながら笑っていた。
結局2段ベッド自体はなんの問題もなく、ただただ僕が慣れない子供用ベッドでうまく寝付けなかっただけだったのだが、それからというもの娘は寝られる時は2段ベッドに、どうしても怖い時は僕のベッドに寝る、という変なルールを作ってしまい僕ら夫婦も
「まあ、まだ5歳だし、徐々に慣らしていくか」
ということで、このルールをしばらく採用することになった。
そんなこんなで最近は子供用2段ベッドで寝ている自分。
夜遅くいつも通り仕事をしていると、子供たちと添い寝中の妻からスマホにメッセージが届く。
妻「今日も2段ベッドでお願いします」
僕「……はい」 今日も僕は可愛いぬいぐるみたちに見守られながら、足を空中にさらして、浅い夢を見るのだ。
