2025年、正月も終わっていつも通りの生活に戻りつつある今日この頃。
我が家は年末年始どこに行くわけでもなく、のんびり家で年越しを過ごしていたわけだが、ふと家族で何気なくテレビを見ていた時、とある番組に手が止まった。
「洋上の激闘 巨大マグロ戦争2025」というマグロに人生をかけた漁師のドキュメンタリー番組である。
おそらく日本にいる人ならこの「漁師系ドキュメンタリー番組」を一度は目にしたことがあるのではないだろうか。
かくいう僕もなんとなく「こういうの、見たことあるな~」程度のものだったのだが、正月のタイミングだったということもあり、チャンネルを変える手を止めて、家族揃ってこのマグロ漁師のドキュメンタリーをじっくり見ることにした。
80歳を超えてなお巨大マグロを釣り上げるレジェンド漁師から、子供のために育児とマグロ漁を両立させ頑張るお父さん漁師、偉大な漁師であった父が引退し船を引き継ぐために脱サラした元サラリーマン新人漁師などなど、それまではこの手の番組をあまり見ることがなかったが、ちゃんと見てみると、なんと魅力的な漁師たちの生き様。僕はすっかり画面に映る漁師たちに魅了されてしまっていた。
そうして番組が進み、漁師たちのマグロに賭ける生活を食い入るように見ていた中で、いよいよ場面は大海原へと切り替わり、漁師たちが船の上でマグロと激闘を繰り広げるシーンへと突入。
船から細長く伸びた一本の釣り糸が、広い海の中にゆらゆらと漂っているのを見ながら、漁師は「来ねえなあ……」と哀愁を漂わせながらボソリと呟く。
と、次の瞬間! 糸が突然ピンッと張りつめ、ものすごい勢いで海の中に引き込まれていった!
「かかった!!でかいぞ!!」
それまで穏やかだった漁師が一変し、素早い動きで釣り糸を巻き上げていく。
巨大マグロとの戦いがついに始まったのだ。
おそらく番組最大の見せ場、ハイライトとも言えるこの“マグロVS漁師”の対決シーン。本来なら自分も固唾を飲んで対決を見守るべきなのだが、自分の悪い癖なのか、このタイミングで全く関係ないあることに気づいてしまう。
「……こういう番組でマグロがかかった時って、絶対BGM三味線だよな……」
そう、三味線だ。
海の男たちを追うドキュメンタリー番組において、見せ場のシーンで必ずといっていいほど三味線のBGMが流れることに、僕は気づいてしまったのだ。
マグロがヒットした瞬間、完璧なタイミングで「そいや!!」という掛け声と共に、速弾きの三味線が高らかに鳴り響くあの感じ。
大海原で巨大マグロがかかった時の高揚感を演出するにはこれ以上ないBGMだ。
「これはいい発見だ……」と謎にテンションが上がる自分。
僕はそこから、散々それまで魅了されていた漁師たちの生き様、そしてマグロとの激闘をよそに、この絶妙なタイミングでかかる三味線BGMのことで頭がいっぱいになってしまう。
「もしマグロがヒットした時のBGMが、三味線じゃなかったらどうなるんだろう……」
自分A「ロックや激しいパンクだったら、漁師の孤独感が出ないでしょ」
自分B「じゃあテクノやエレクトロは?」
自分C「いや、電子音は漁師の分厚い人間味を表現するには無機質すぎるから却下だね」
自分D「ジャズ、R&Bとか」
自分E「いやいや、日本男児の生き様を表現するには曲調に違和感がありすぎるからダメよ」
などと、脳内で勝手に「第一回 漁師がマグロを釣り上げる時のベストBGMはなんだサミット」が開催されてしまった。
そして結果は当然ながら、満場一致でどう考えても三味線がベストだという結論に至った。
「ふう~、やはり三味線だな」
と無事、脳内サミットも終了し満足げに三味線がベストであることを改めて確認した自分。
ここで不毛な妄想に終止符を打っておけばいいものの、頭の中でもう一つどうしても考えたい議題が出てきた。
それは「僕の場合はいつ三味線が流れるのか?」ということだ。
つまりイラストレーターの自分が仮にドキュメント番組に出た場合、どこで勝負所となる三味線が高らかに鳴り響くのか、という本当に本当に無駄な議題である。
「熱血! イラストに人生をかける孤高の男たち! クライアントから巨大発注を掴み取れ!」みたいな番組があったとしてだ、一体どのタイミングで僕の三味線が鳴るのだろう。
漁師がマグロをヒットさせた瞬間に音が鳴り響くことを考えると、おそらくシーン最大の見せ場で三味線は発動するはずだが、それはイラスト仕事の場合どこなのか。
苦悩の末、グッドアイデアに辿り着きノートにアイデアスケッチを走り書きするタイミングか。はたまたキャンバスに向かって大きく色を塗り始めた時か。それともパソコンでイラストをいよいよ仕上げ始めるタイミングか。
無事閉幕したと思っていた脳内サミットが再び開催される運びとなり解散していた自分A~Eたちがスゴスゴと席に戻ってくる。そうして本当に無駄な妄想を頭の中でまたあれこれと考えてるうちに、目の前のマグロ漁師番組は終わっていた。
「…………」
まあ、どうでもいいか(笑)、と思いつつ実は今でも自分のイラストレーター人生の中で、いつ三味線が鳴り響くのかちょっと気になっている。