目が覚めたら11:30をまわっていた。寝過ぎた。布団の中でまずSNSを開いてしまう。
1日の一番初めに触れるものがこんなのよくないよな~とは思いながら、Instagram、X、YouTubeのコメント欄、thread、ネットニュース、仕事のメール、一通りチェックする。

起きるか。古いシャッターをガラガラと開け、カーテンを開ける。寒いのでもこもこのズボンに履き替えて、植物たちに水やりをする。自分が水を飲むより先に、水をやる。いい天気。最高。朝が好きだ。もう昼だけど。

古い家だが明るい

毎朝プロテインを飲む。変なところ神経質なので、シェーカーからグラスに移して、氷を入れて銀のマドラーでかき混ぜて、いい感じの見た目にしてからじゃないと飲めない。甘味料の味が嫌だな、と思いながらももう3年くらい同じものを飲んでいる。

冬はあったかいコーヒーを淹れる。夏はアイスコーヒー。陽の当たる場所に移動して飲む。次は洗濯。私の1日は、毎日こんな感じでゆっくり始まる。まるで老後だ。
めざましをかけることは少なく、あまり時間には追われていない。うらやましいと言われればそうかもしれないが、世の中から自分が大きくズレているようで、変な生活だな、とは思う。でも精神的に落ち着いて過ごすためには、私にはこういう時間がとても大切だった。

こーひー

「NeWORLD」で「坂口さんの人生観や恋愛観の変化を振り返るようなコラムを書きませんか」と、声をかけていただき、今これを書いている。
今までなかなか文章にする機会がなかったので、自分なりに書けたらおもしろいかもしれないと思った。どこかで漠然と、書いてみたい気持ちもあった気がする。

こんなのんびりとした朝が(昼だけど)自分にはとても大切なことなんだと思うようになったのは、頭がバタバタザワザワするような忙しい時期に、自分のペースを大きく見失ったからだと思う。

頭がバタバタザワザワというのは、わかる人にはわかる表現な気がするが、脳のあっちこっちが散らかっていて、出会う方ひとりひとりと向き合う余裕がなく、ひとつひとつの仕事にていねいに集中して向かえず、頭の中が激しく走り回っているので、対象がよく見えない状態。
目の前の人や物と目が合わない。とにかく乱雑で、自分でもわけのわからない、宙に浮いたような、地に足がついていないような、浮ついているような、強烈なスピードで自分が壊されていくような、そんな感覚だった。

20代、自分にとって、決して心地よくないスピードで生活は動いていた。
当時の私はとにかく頭の中が常に泣いたり怒ったりして忙しく、余裕がなかった。

2014年写真

私は、2011年、23歳の時に2人組バンドHAPPY BIRTHDAY のVo.Gt.でメジャーデビューした。2015年に解散してソロになり、今年で「坂口喜咲」名義での活動が10年目になる。

フリーランスになって10年、と言えば聞こえはいいけれど、気合を入れて売り出してもらったものの思うように売れず、事務所とレコード会社との契約が切れ、ひとりになっただけだ。

バンドを結成して2回目の無力無善寺(高円寺アングラライブハウス)ライブで事務所が決まり、1年程でメジャーデビューという、とんとん拍子にいきすぎた妙な2人組バンドだったので、常にチームで作ってきたグループであり、もはや大人が抜けては成立せず、2人に戻ることは不可能だった。

2015年本名の「坂口喜咲」名義で活動開始

解散してしばらくは調子に乗っていた。
散々ちやほやされてきたので、きっとすぐに新しい事務所などが決まるんだろうと思い込んでいた。

しかしいつまで経っても、私の周りには誰もいない状況が続き、ひとりでの活動が続いた。
解散もなにもかも、すべて自分のせいだと何年も自分を責め続けた。実際私は未熟だったし、自分勝手だった。自分のことでいっぱいいっぱいだった。

突然ぽーんと投げ捨てられたような感じ、毎日のように顔を合わせていたスタッフの方たちにも、ドラムの相方にも、もう会う予定はなかった。すべてを賭けて必死でやったけどだめだった、という事実は、私の自尊心を大きく傷付けた。自分の作る曲にも私自身にも、価値がないと思った。

正直、バンド時代のことを書くのはずっと怖かった。急な解散だったため、ファンのみんなを裏切ったような形になってしまった。その後、バンドについて具体的に説明したり触れることはなかなかなかったけれど、私自身、今でもずっと大切な記憶だ。あの時期があったから今がある。
ただ、頭の中を整理するのに7,8年かかったことも事実だ。

癒しのすだち

数年前に体調を崩したタイミングで、カウンセリングを約4年近く受けた。だいぶいろんなことを客観的に見られるようになり、ここ何年かは少しずつnoteを更新していた。そこから今回お話をいただけたと思うと、文章に自信がなかったにせよ、書いていてよかったと思う。

ソロになってからの10年間。27歳から37歳。考え方も生き方も随分変わった。

どんなに私が変わり続けても、支えてくれたファンのみんなには、心から感謝しています。
みんながずっといてくれたから、今も音楽活動を続けられています。

何が書けるか自分でもまだわからないけれど、少しずつ楽しく書いてみようと思う。

坂口喜咲

坂口喜咲

(さかぐち きさ)
歌手 / 作詞•作曲家

東京都出身。2011年、バンド HAPPY BIRTHDAY のVo.Gt.としてSony Music Associated Recordsよりメジャーデビュー。TVアニメのED曲などを手がけたのち、2015年よりソロ活動を開始。

光と影、強さと繊細さ、両極を描くような楽曲は、長年にわたり女性たちを中心に支持されている。皆さんにハッピーの粉を勝手にふりかける、ハッピーエンジェルきいちゃん。

弾き語りやバンドセットでのライブ活動のほか、楽曲提供、ナレーション、コラム執筆など幅広く活動。