NeWORLD インタビュー

疑問をとことん語り尽くす対話漫画『SPEAK』連載開始記念    漫画家・夜なのに朝日インタビュー

NeWORLD 編集部

NeWORLD初のコミックとして連載がスタートした漫画『SPEAK』。連載開始を記念して、作者である「夜なのに朝日」さんへのインタビューをお届けします。日常では見逃しがちな視点から対話を広げていく『SPEAK』の世界はどのようにして生まれたのか? ファン必読のインタビューです。

自分の経験と直感を大切に、ゼロからスタートした漫画作り

――『SPEAK』には日常で素通りしがちな疑問にスポットを当てたり、共感できるテーマが多く登場します。ストーリーやテーマはご自身の実体験から考えているのですか?

もちろん実体験も多くあります。『SPEAK』を描き始めてから、もう5、6年は経ちますが、描き始めた当時は、話の作り方すら分からない状態だったので、自分のことや、周りのことしか描けることがなかったんです。身の回りの出来事を漫画のネタにして練習を重ねて、その後いろいろなテーマを描くようになりました。

――それまで漫画のご経験はなかったのでしょうか?

そうなんです。当時は、5年ほど勤めた似顔絵屋さんを退職して、これからイラストでやっていくか、漫画でやっていくかを悩んでいた時期でした。その時に、なんとなく自分の性にあっていそうだなと思って漫画の練習を始めました。本を読んだ感想を文章ではなく漫画で描いてみようとしたのがきっかけです。

一度、イラストの方にも行こうとしたのですが、コロナ禍で進もうとしていた道が閉ざされてしまって。ちょうどそのタイミングで描いた漫画が少しバズったものですから、じゃあこれはもう漫画なのかなって。偶然が重なった結果ですが、その頃から描いていたものが積み重なって今の『SPEAK』になりました。

――漫画の道に導かれたようですね。しかも「読み漫!」※1のスタイルが始まりだったとは。

最初は本当に漫画のノウハウがないので、まずは最小人数からスタートしようと思って、登場人物も最初はかおると秋ちゃんの2人だけでした。当時はタイトルもつずに、SNSに投稿するためだけに短い漫画をひたすら描いていましたね。『SPEAK』というタイトルは、コミティアに参加するときに、「本にするためにはタイトルがいる!」ということに気づき、その時初めて考えたタイトルです。

  ▲かおると秋、2人の頃の漫画
『読み漫!』BRUTUS.jpで連載していた読者感想文ならぬ読書感想漫画。画像は連載のきっかけになった『読書して内容を伝えようとするもうまくいかない人」より

――3人組の安定感があったので、純ちゃんが途中参加とは意外です。

私はお笑いが好きでよく漫才やコントを見るのですが、東京03のコントを見た時に、それこそ「3人いると、いいな」って思って(笑)。純ちゃんがメンバーに加わりました。かおると秋ちゃんにはモデルがいるのですが、途中参加の純ちゃんは私の完全オリジナルキャラクターです。

 ――キャラクターが2人から3人に増えたことで漫画に変化はありましたか?

2人よりも3人の方がキャラが動くようになった気がします……多分。

正直、3人とも自分の中に存在しているキャラクターなので、キャラが全員かぶっているというか、全部自分っぽくなってしまうことも多くて。そこは結構苦労したところでもありますね。

 ――キャラが自分に寄りすぎないように工夫されているんですね。

描いた漫画はいつも家族にも見てもらっていて、「かおるちゃんは、こういうことは言わないんじゃない?」とかいうことを逆に教えてもらったりしています。

好きなことを仕事にするとは……。悩んだ学生・社会人時代

――絵自体は昔から描かれていたんですよね。

はい。絵は小さい頃から描いていて、周りから上手だねって褒められることもありました。それで自信がついて、高校卒業後は美術系の専門学校に進学したんです。

当時の私は将来の進路とか、専門学校がどういうところなのかとか、何も考えずに入学して、現実を叩きつけられました。当たり前ですが、専門学校は本気で絵を仕事にしたい人たちの集まりだったんです。自分だけが子供のままで、ここにいるべきではない、いても仕方がない、という気持ちになりました。

そこから紆余曲折あって似顔絵屋さんに就職したり、今は漫画を描いたりしているんですが……。

――似顔絵と漫画ではかなりジャンルが違いますが、似顔絵から離れたのはやりたいことが変化したからでしょうか?

似顔絵って割とパフォーマンスというか。今この瞬間に、目の前の人を満足させるというお仕事なので、ただ絵を描けばいいというわけではないんです。しかも私が所属していた会社は、かなり攻めたタッチで似顔絵を描くスタイルだったので、たまにお客さんに喜んでもらえないこともありました。

そんなときに、自分はたった1人のためだけに絵を描いたのに、その人に喜んでもらえないなんて、なんのために描いたんだろうって思ってしまって。

――それでも、絵から離れることはなかったのですね。

そうですね、絵には結構呪われていて……(笑)。でもせっかく手に職がついたし、絵の仕事を続けようと思ったのもあります。退職後もいろんな葛藤を抱えて、悩んで、それでも自分の人生には絵が必要だと思いたかったのですが、ある時「もう絵はいいか。自分は絵だけじゃない、描かなくても生きていける」っていう思考になったとたん、不思議なことにSNSで漫画が多くの人に読まれたり、それをきっかけにコミティアに参加したり、お仕事をいただいたりして、どういうこと!? となりました。

▲コミティアで発表した自費出版の漫画たち

漫画家・夜なのに朝日として

――今はどんな気持ちで漫画を描かれていますか?

他社でのお話になりますが、現在も担当編集さんにビシバシ鍛えていただいています。やっぱり商業となるとなかなか一筋縄ではいかないのですが、自分のスキルがぐんぐん上がっている実感があって、大変だけどやっぱり楽しいです。一方で、同じ商業でも『SPEAK』は本当にのびのび描かせていただいているので、うまくバランスが取れている気がします。最初はめちゃくちゃ苦しかったですけど、今が一番楽しいですね。

――漫画を描くときにこだわっていることはありますか?

こだわりというか、気をつけていることなんですが、読み手を「飽きさせ(たく)ない」ということです。よく漫画の構図を褒めていただくことがあるのですが、ぐるぐる変わるあの構図は「飽きないで……」という祈りのようなものです(笑)。

いわゆる顔漫画と言われるような漫画って、顔を魅力的に描いたり、中身が相当おもしろくないと読んでもらえないと思うんですね。でも自分にはそんなものは描けないから、とにかく画面に変化を出すことを意識しています。

顔漫画でおもしろいって、最強ですよね。

▲『SPEAK』各話のラフ

――では最後に今回初めて『SPEAK』を知った方・読者へのメッセージをお願いします。

題名にある通り、『SPEAK』はTALKではありません。漫画の中ではいつもかおるが中心になって喋っていますが、彼女は心通わせた秋ちゃん、純ちゃんの前でしか実はあんなふうに喋れないんです。だからみんなで話し合うというより、かおるがひとりでペラペラと喋っているシーンが多く登場します。そんな内弁慶な主人公をあたたかい目で見てほしいです。

そして、私もカプセルトイが好きなので、そういう何が出るかわからない、予想がつかないような漫画を描きたいですね。日常のおまけ・箸休め的な存在として楽しんでいただけると嬉しいです!

夜なのに朝日さん、ありがとうございました!

『SPEAK』はこちらから読めます📕

2024年5月15日@ケンエレファント
構成・編集:水口麗

[プロフィール]

夜なのに朝日
漫画家。
2021年コミティアにて自費出版の漫画本「SPEAK」を発表し始める。
2022年くらげバンチ同人誌大賞で「絵が上手くならない問題」が奨励賞を受賞し、2023年「化け!へだてなく」3話読み切りを掲載。現在に至る。 X