もしもう一度弾き語りをやるなら、新しいギターがほしいと、漠然と思っていた。身体のサイズに合い、小さくて一緒にらくらくでかけられるやつがいい。

2023年春、たまたま入った御茶ノ水の楽器屋で、まさに探していたようなミニギターに出会った。試奏してみると、ずっと鳴らしたかった音がかんたんに鳴る。私の身体にぴったりだった。

これからの生き方に合うギターだと感じ、迷わず購入した。無理して頑張る生き方はもうしたくない。この子となら、力まずにどこへだって歌いに行ける気がした。

はじめて仲良くなれたミニギター

友人が誘ってくれて、ワンマンの前にもう1本、ライブが決まった。うれしかったけど、正直不安だった。鏡で自分の顔をしみじみ見ることすら久々で、メイクや服の選び方も忘れてしまった。時間だけが過ぎ、何もしないまま歳だけ重ねたような気がする。

今までの自分とは、色々違うことはわかっている。以前と同じようには活動できない。もし失敗しても自分を責めないとか、落ち込み過ぎないとか、そういう新しいやり方を見つけたい。

むずかしいことはもうどうでもよかった。結局やるしか元気になる方法がなかったので、嫌だろうがなんだろうがやるしかないという、あきらめのようなものがあった。たとえこの先の音楽活動がどんなに辛くても、やめるよりは辛くない気がする。

歌えた!

ライブはすごく楽しかった。脳や細胞はすべて覚えていて、休んでいたことなどすっかり忘れた。魂が輝き、生き返る思いがした。歌を歌うとしあわせになり、すべての存在が愛しく、大切に思えてくる。生きててよかった。このしあわせが躁状態ならば何が真実なのかよくわからなくなるが、どんな私も今の本当の私で、しあわせなものはしあわせだ。

再度うつにならないよう、体調を見ながら慎重に日々を進めていく。これから先の人生は無理をせず、楽しく生きると決めたので、辛そうなこと、苦しそうなことからは、堂々と離れるようにした。頑張らなくても、楽しい時間を作れることも少しずつ知った。

ライブをしていると、もちろんうまくいかない日もある。自分の準備不足もそうだが、機材トラブルや、環境やPAさんとの相性など、思いもよらないことが色々と起こる。それでも、その日はその日でまあいいじゃないかと、以前より思えるようになってきた。もちろん反省するし、悔しくて怒ったり、しばらく引きずったりもする。でもそこですぐに、もうステージに立つ資格がない、などと大袈裟なことは思わなくなった。

今日は失敗したな、つらかった、と受け止めて堂々としていればよい。昔のように深刻に思い詰めなくていい。今日のことは今日のこと。また次からやればいい。

ワンマンやリリース後に燃え尽きないためには、「絶対に次の予定を決めておく」ことがすごく大事だとも気づいた。そこに向けてすべてを賭けてしまうと、終わってから抜け殻になってしまう。管理してくれるスタッフなどがいないとついこの辺りが適当になってしまうが、先のスケジュールを埋め続けることは、本当に大切だ。継続して活動ができるよう、積極的にライブオファーを受けるようになった。もちろん自分自身の体調、呼吸をしやすくするために、やっているのも大きい。

「音楽」でやっていくという固い考え方もやめた。音楽理論が一切わからないため、ずっとコンプレックスがあったのだ。「表現」でやっていくと考えるとしっくりきた。こういう文章もそうだし、絵を描いたり、そういうことすべてを、同じように楽しめるようになった。

けいさまのおかげで楽しくやれるようになった

シングル「愛だけは」「キッチン」のアレンジは、以前より信頼しているアーバンギャルドのおおくぼけいさんにまるっとお任せした。今まではスタジオに入りバンドで練ることが多かったが、ねちねちとしつこくやり続ける作業を、今は一旦やめてみたかった。

この2曲のおかげでさらに肩の力は抜け、再びさまざまなライブに呼んでもらえるようになった。東名阪とリリースツアーをまわり、待っていてくれたみんなとも再会することができた。私がどれだけファンのみんなに支えられ、救われて生きてきたか、想像つかないかもしれないが、きっとみんなが思うより何倍も何倍もであることはまちがいないと思う。

私がどんなにだめになっている時でも、作った音楽がひとりにでも愛され、誰かの生活や人生と共にあるという事実は、私を強く励ましてくれた。

小1の日記

今思うと幼少期からずっとまじめで神経質だった。明るく活発だったので、繊細さに気づかれないことも多く、自覚もしていなかったが、頭の中には常にいくつも選択肢があり、大人が一番喜びそうな選択をすることで必死だった。「子供らしく無邪気だけどちょっと賢い子供」をずっと演じていた。

完璧な歌手になりたかった。完璧な娘で、完璧な恋人になりたかった。みんなに愛されて、必要とされる人になりたかった。そんなのは不可能だと当然のことに気づくのに、随分と時間がかかってしまった。

自分を貫くことが大事だと、信じていた。たった今の考えが明日には変わるかもしれないことや、ずっと同じ意見を貫き通せないことは、あってはならないと思い込んでいた。だけど人は変化して当たり前だし、歩く速度もそれぞれ違うこと、私のようにすごい速さで考えやイメージがころころと変わっていってしまう人もいる。それはそれでまあいいじゃないかと、最近は無責任に開き直れるようになった。

誰でも小さな嘘をついたり、嫉妬したり、なんらかのかっこわるい、醜い部分を持っているものだと思う。誰しもはずかしくてかわいい存在なのだと心の底から思うと、自分だけが愚かで死んだ方がいいとか、極端な捉え方をすることがなくなってきた。俯瞰で見られるようになったのかもしれない。

わたしが素直に生きること、素直に歌うことで、できることがあるのかもしれないと、もう一度思えるようになった。それは思い上がりでもなんでもなくて、誰にでもある力で、自然なことだとも今は思っている。

坂口喜咲

坂口喜咲

坂口喜咲(さかぐち きさ)
歌手 / 作詞•作曲家
東京都出身。
2011年、バンド HAPPY BIRTHDAY のVo.Gt.としてデビュー。2015年のバンド解散後からは、本名でソロ活動を開始。弾き語りからバンドセット、楽曲提供やナレーションなど、自由な表現スタイルで活動中。