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サマージャム'23
サマージャム'23
街の中に潜むキュートなモチーフや建物、風景をお菓子で表現するスイーツ作家hacoさん。今回から街の気になった一部分を切り取って、アイシングクッキーで描く連載「Eatable City」。hacoさんのフィルターを通して見ると、街の中にはお菓子みたいなモチーフがたくさん。お菓子目線で街を歩けば、いつもの景色がかわいらしく思えてくるかもしれません。
給水塔とは、団地や工場、高速道路のサービスエリアなど、一定の区域に安定した水圧と水量で水を送り届ける施設だ。給水対象となる建物よりも高い塔を建て、その頂部に大きな水槽を設けてポンプで水を貯め、重力を利用して給水する仕組みになっている(団地の給水塔大図鑑より引用)
不思議な形をしていたり、かわいい色だったり。街で見かける給水塔は、背が高くて遠くからもよく見える。
今回は気になる給水塔を、立体的に作ってみた。
川口ジャンクションの少し北側、東北自動車道と並んで走る国道122号線沿いにある、川口市水道局石神配水場の給水塔。
見つけたとき、形と模様が赤ちゃんのガラガラみたいでかわいいなと思った。
はじめ、土台はクッキーで作りタンクの部分はスポンジケーキを円柱型に焼いてくっつけ、上からチョコレートでコーティングしようと思い付き、その通りに作ってみたのだけれど、何度挑戦してもチョコレートがなめらかにコーティングできなかった。
そのあとアイシングクリームでのコーティングにも挑戦してみたけれど、こちらも難しくて断念。
タンク部分も土台と同じクッキーで作り直し、溶かしたマシュマロに粉砂糖を加えて粘土状にしたものでカバーリングをすることにした。
円錐台型の土台は、パンのコロネを作るときに使う型、円柱型のタンク部分は丸いクッキーの抜き型の周りに,、クッキーを巻いて焼いた。
いつも使っているクッキー生地だと曲げたときに割れてしまうので、ハチミツをたっぷり入れた伸びのよい生地を使った。
空洞のクッキーの内側には補強のため、硬めのクッキーで作った柱とスポンジケーキを詰め、タンクの上部は丸く焼いたクッキーで蓋をして、アイシングクリームを塗って仕上げた。
小さな給水塔を欄干に乗せて撮った写真。給水塔の親子みたい。
東大和市の森永乳業東京多摩工場の敷地内にある、待ち針のような形の給水塔。
わたしが一番はじめに認識した給水塔は、実家の近くの団地にあった待ち針型のものだった。今は解体されてしまったのだけれど、同じ形のものを見るとその給水塔を思い出す。
細い支柱の上に球状のタンクがのっていて不安定に見える、そのアンバランスさにも惹かれる。
待ち針型は形が複雑なので、土台、支柱、タンク、それぞれ分けてパーツを作り、組み合わせることにした。
土台はアルミホイルで作った円錐にクッキーを巻いて焼き、タンクは半球状のクッキーをふたつ作り、ナイフで支柱を差し込むための穴を削ったあとアイシングクリームで接着して球状にした。
支柱を土台に立てた様子。
川口の給水塔と同じく、マシュマロと粉砂糖で作った粘土状のものを薄く伸ばしてカバーリング。球状のクッキーのカバーリングは難しかったので、あらかじめビー玉で練習した。
持ち運ぶ際に首の部分で折れてしまいそうだったので支柱とタンクのパーツをふたつに分け、現地でジョイントさせることにした。
東京多摩工場には以前、北と南に2基の給水塔があり、今は南側のものだけが残っている。北側にあった給水塔は、2019年から2020年の間に撤去されてしまったみたい。
北側の給水塔があった場所にも置いて、復活させてみた。
以前から工場見学に行きたいと思っているのだけれど、今はコロナのため休止している。
いつか土台のカーブを間近で見てみたい。
立川市富士見町の団地、富士見町住宅にあるとっくり型の給水塔。
北側に広い公園があるため、給水塔と団地が並んで建つ様子が良く見える。
土台、上部は、大きさの違う円錐台を組み合わせることにして、川口の給水塔と同じくコロネ型で大きさの違うふたつの円錐台を作った。
それをアイシングクリームで接着しようと考えたのだけれど、強度が足りなくて繋ぎ目で折れてしまいそうだったので、重ねたクッキーの空洞に飴を溶かしたものを流し入れた。
そのあと、今までと同じ要領でカバーリング。
最後に小さな窓をアシンングクリームで描いて完成。
中身が飴なので、どっしり重い。
鉄塔と給水塔
団地のかわいい面格子
もう一つ、とっくり型の給水塔を持って行きたい場所があった。
2013年に取り壊されてしまった、阿佐ヶ谷住宅。
2006年から4年ほど南阿佐ヶ谷に住んでいて、その頃頻繁に訪れていた大好きな場所。
給水塔と前川國男設計のテラスハウスが並んでいた場所に、クッキーで作った給水塔とテラスハウスを置いてみた。
今は公園になっていて、道だった所はマンションと公園を隔てる通路になっている。
写真を撮っていたとき、足元にインターロッキングブロックで作られた数字があるのに気づいた。
これは41号棟があったあたりに。少し先には42もあった。
阿佐ヶ谷住宅の、それぞれの棟があった場所を示しているのではないかと思う。
新しいマンションが建って全く面影はないけれど、そこに阿佐ヶ谷住宅があったという痕跡が残されているのをみつけて嬉しくなった。
多摩市の団地、愛宕二丁目住宅にある、緑色のラインが特徴的な給水塔。
はじめはすべてのパーツをクッキーで作ってみたのだけれど、緑のラインの部分がどうしても脆く、壊れてしまう。
何度かの失敗のあとすべてをクッキーで作るのは諦め、本体だけをクッキーで作って、緑のラインはシュガーペーストという乾燥すると硬くなる砂糖でできた粘土のようなもので作ることにした。
本体に少し硬めのアイシングクリームを塗り、それをボンドの代わりにして緑のラインのパーツを置く。乾いたら、表面全体をアイシングクリームで塗りつぶしてさらに乾かし、最後に立体になるよう、端にアイシングクリームを塗って接着。
本体の底面と中間部分は小さな四角いクッキーで塞ぎ、さらに上部の空間に溶かした飴を流し入れて補強した。
愛宕二丁目団地の給水塔は、ジブリ映画『耳をすませば』に出てくる。
撮影の帰り、耳をすませばの舞台の聖蹟桜ヶ丘を少し散策した。
桜ヶ丘のロータリー。映画ではここに地球屋がある。
ロータリー西側の道路の先に見える給水塔。
映画の中に何度も出てくる、いろは坂の途中からの聖蹟桜ヶ丘の街並み。
今回、かなり試行錯誤しながら進めたため、たくさん失敗してしまった。
特に森永の給水塔と愛宕二丁目住宅の給水塔は難しくて、何度も作り直した。
参考 団地の給水塔大図鑑
アイシングクッキーやバターケーキなどで、街にあるモチーフを表現するお菓子作家として活動中。東京ビルさんぽメンバーとして「いいビルの世界 東京ハンサムイースト」(大福書林刊)に携わる。2022年にはトゥーヴァージンズから『秀和レジデンス図鑑』を刊行予定。1960〜70年代に建てられた、とくにデコボコ、ギザギザしたヴィンテージマンションや駅の床にある矢印を撮り集めている。