スキマバイトをはじめてから、気がついたらほぼ毎日働き続けている。こなした仕事は2000件以上にのぼり、飽きるどころか、いつのまにかスキマバイトの沼にどっぷりとはまっていた。これは、そんなぼくが体験したスキマバイトの記録だ。まずは、スキマバイトをはじめた経緯からお話しよう。
ある日仕事がなくなった
これまではあまり働かずにいても、何とか生活はできていた。2019年頃いくつかの会社から本の依頼があり、制作に入っていた。本の企画が進み、かたちになるのを楽しみにしていたときに、世間はコロナ禍になった。
運営しているお店は営業時間短縮に追い込まれ、進行中だった本の企画は、突然白紙に。会社は倒産し、人生大暴落。一度大暴落を味わうと、これ以上の最低ラインはないという自信が生まれた。潰れてしまったものは、仕方がない。今までやってきたことができない。生活の収入は? さて、これからどうしようか?
水道検針のアルバイトをやってみる
最低限の生活環境をつくるためには、お金が必要だ。コロナ禍がいつまで続くのかわからない。国の支援金や給付金なども調べるなかで、この世の中に、人間が最も必要不可欠になるものを考えた。それは、水だ。水に関わる仕事なら安定しているはず。思い立ったらすぐ行動にでるタイプなので、そのまま水道検針の仕事をしようと面接に向かった。
自分のお店をはじめたころ、安定した収入がなかったので、近所にある牛丼屋の深夜バイトの面接を受けたことがある。そのとき面接に来たのは、日本語が話せない外国の人ばかりだったが、何故かぼくは面接に落とされてしまった。それ以来約10年ぶりの面接だったが、水道検針のアルバイトには無事に合格した。
水道検針の仕事は、最初の1カ月は見習いとしてスタートする。黄色の線が入った制服を着て、先輩検針員とどのルートをまわったらよいか、説明を受けながら研修を受ける。自分が担当したエリアは、文京区エリア。その地域のルートを一度覚えてしまうと、2回目以降はすばやく対応できるのである。見習い期間の1カ月後には検針テストがあり、それに合格したら緑色の線が入った制服になる。ここから晴れてミスも許されない仕事をひとりで任されることになる。
仕事は朝早くからはじまり、朝礼後に担当する区域の現場へと向かう。この仕事は副業でやっている人が多く、ベテランの人になると2時間以内で約200件の水道メーターを測定するという。それを1日2セット(合計約400件)やって、午前中の4時間たらずで約1万2000円稼ぐ猛者もいる。

シフトの自由が利くせいか、職場にはお笑い芸人の卵が多かった。ぼくも職場でお笑い関係の人間と間違えられたことが何度もある。そんな環境で働いていたある日、本業がお笑い芸人の先輩が、「おれは水で生きているから」と言った。水道検針の給料で生活しているということだろう。ぼくは本業のある人が、これを言ってはダメだろうと感じ、この仕事への気持ちが少しずつ薄れていった。徐々に自分の本業の仕事が戻ってきたころ、水道検針の仕事をやめることにした。
いま思うと、この経験がイベントやキュレーション、絵以外の仕事に挑戦して働くきっかけとなった。
就職カフェに行ってみる
水道検針の仕事をやめて本業一本で働いていると、空いた時間を利用して働けるスキマバイトアプリが目に留まるようになった。2010年代後半、タイミーのほかにワクラクという隙間バイトのアプリが登場したのだ。
飲食店などで突然人手が不足したとき、紙媒体の求人広告だと費用がかかるが、スキマバイトのアプリでは手数料の数%で募集でき、しかもすぐに働き手が見つかるというメリットがある。そのため、隙間バイトアプリは普及したのだろう。現在では、LINEやスポットバイトルなど新規参入のアプリも増え、業界全体が盛り上がっている(2025年現在)。早い者勝ちで応募すると、面接なしでスキマ時間にバイトができる。その日限り、数時間だけ働き、終わった後に申請すると、働いた分のお金がすぐに入金されるという仕組みだ。
さっそくスキマバイトのアプリに登録し、家から歩いて5分の場所にある就職カフェへ行ってみることにした。ここでは、就職についてなんでもアドバイスをもらえて、さらにお金までもらえるというものだ。自分の経歴は、あまりにも特殊なので、就職アドバイザーにどんなアドバイスをしてもらえるか気になり、相談してみた。
窓口担当をしていた方は、はじめは自信満々だった。なんでも相談できるというので、資料や書類を持っていった。主な仕事は、企画プロデュース、展覧会企画、制作、宣伝、本やCD、カセットの制作、DJ、イラスト、絵本作家、アドバイザーなど多岐にわたる。フリーランスとしての経歴を話せば話すほど、担当の方はどうアドバイスすればよいか戸惑ってしまうようだった。
困惑する担当の方の反応を見ると、ぼくの人生、働き方、楽しみ方は人に左右されず、すべて自分で作っていかないとダメなんだなと思った。スキマバイトでいろんな職場に足を運んで、どんどん創作の糧にしようと決めた日であった。ちなみに就職カフェはUber Eats(ウーバーイーツ)専用のデリバリー料理店になり、最近は三重県中心の物産と海鮮料理を扱うお店が入っている。

最低限の生活のなかで、ヒモであろうが、お金を稼ごうが、生き方を選択するのは自分自身。時間ほどお金で買えないものはないので、有限な時間を無駄なく生きる。
そうやって、ぼくのスキマバイト生活がはじまることとなった。









