NeWORLD インタビュー

江戸時代の粋なライブペインティング「大画即書」をESOW流解釈で立体化! アーティスト・ESOW インタビュー

NeWORLD 編集部

10代の頃に出会ったグラフィティ(スプレーなどを用いて公共の場に描かれる文字および絵)に感銘を受け、そこに江戸・下町文化のテイストを掛け合わせた独自の作風で、国内外から注目を集め続けるアーティスト・ESOWさん。今回は11月発売の新作ソフビアートピース「大画即書」の発売に先駆けて、ソフビのモチーフや製作についてのお話をうかがいました。

日本の伝統芸術から影響を受けた和の感性

――ESOWさんは大の北斎ファンだとうかがったのですが、好きになったきっかけはありますか?

北斎だけじゃなく、いろんな日本画を見るのが好きですね。グラフィティはアメリカで始まって、アメリカで育っていった文化ですが、自分は日本人だし、せっかくなら日本らしいものを作品に取り入れたいということはずっと思っていたんです。そういう考えから意識的に日本画とかを見るようになって、好きな画家も自然と増えていった感じですね。

――今回の「大画即書」というモチーフはESOWさんが提案されたんですよね。

江戸時代に北斎が企画した、現代で言うライブペインティングのようなイベントがあって、その様子が絵に記されて残っているんです。それが『大画即書細図』ですね。そこで描かれている、袴を着て大きい筆で絵を書いている人物がいいなと思って、立体のモチーフに選びました。

――中空工房でのソフビ第一弾は縁起物として知られる「福助」をモチーフにしたものでしたが、縁起物シリーズで新作が出るのかと思いきや、今回は人物がモチーフでした。

まあ招き猫とかでも良かったんですが、それだと単純すぎると思いますね。展開としてもモノとしても単純な作りなので、もう少しリアルで複雑なものを作ってみたいと思ったんです。そういう意味では大画即書はぴったりだと思いました。

▲インタビュー会場は北千住の「八古屋」。お店の壁面や灰皿にESOWのアートが施されている
 
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●北斎大画即書細図とは?
北斎大画即書細図(ほくさいたいがそくしょさいず)とは、江戸時代に名古屋でおこなわれたパフォーマンス「大だるま絵」の様子を記録した絵本。120畳の紙に大きな筆で大だるまの絵を描くというもので、このイベントの立役者なんと当時たまたま名古屋に立ち寄っていた葛飾北斎。今回のソフビは大だるま絵を実際に描いている人物をモチーフにデザインされた。
画像:文化遺産オンラインより引用

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――北斎といえば『富嶽三十六景』や『北斎漫画』のイメージが強いので、「大画即書」は今回初めて知ったという方も多そうです。

『大画即書細図』の解説本はフリマサイトでずっーと探していて、3年越しにやっと見つけたんです。たしか1万円くらいで出品されていたかな。薄っぺらい本なのに。

そこで大画即書の絵を見た時に、これ、大きい絵とセットにしてフィギュアとか作ったらすごくいいなと思っていたんです。

――実際は絵もセットで販売するとのことで、まさに思い描いていたものが形になったという感じですね。

本当はもっともっと大きいポスターをセットにしたかったんですが、パッケージの箱に収めなきゃいけないという大人の事情があって……。想像よりもコンパクトなサイズになっちゃいましたけどね。

――公共の場で大きな絵を描くという部分では、ある意味グラフィティと大画即書は通ずる部分があったりするんでしょうか。

そうですねえ……。自分もライブペイントとか昔はやっていましたが、実はあんまり得意じゃないんです。というか、どっちかと言うと嫌い(笑)。落書きくらいならいいですが、人に描いているところを見られるのは苦手で。気合いを入れなきゃいけない時に人に注目されていると変な汗をかいちゃいます。

――普段は平面作品をメインに描いているESOWさんにとって、自分の絵が立体になるというのはどんな感覚ですか?

見ていて楽しいですね。昔、自分で木を彫ったりして立体物を作っていたことがあったので、抵抗とかは全くありません。今回の原型も自分の絵にすごく近くできているし、特に手なんかはよくできていると思いましたね。

――以前ご自身で作った立体はイラストをモチーフにしたものですか?

そうです。粘土と発泡スチロールで形を作って、パテを塗って仕上げた立体とかもありました。それはたしかBEAMSの個展の時に出したことがありましたね。

――「大画即書」は人物造形もさることながら、筆が非常にリアルに塗装されていたのに驚きました。

それは自分が実際に使っている筆をわたして、竹の色とか模様とかのディテールを再現してもらったんです。筆先も2回目か3回目のサンプルの時はスプレーでふわっと色を入れたようになっていたんですが、それだとちょっとのっぺりしちゃうんですよね。だから筆で毛を描いたような塗装に直してしてもらいました。中空工房の担当が工夫してくれましたね。

――ESOWさんの作品にはよく和風のモチーフが登場されますよね。

そうですね。特に福助は昔からすごくたくさん描いているモチーフです。自分はそういう縁起物がとにかく好きで、福助はもちろん熊手とか、招き猫とか。立体じゃなくても富士山、松、竹、梅、桜。とにかく縁起がいいものは作品のモチーフとして取り入れるようにしています。下町周辺って「縁起を担ぐ」みたいな風習がまだ残っている感じがして、そういう部分は大切にしたいと思っているので。

――地元を大切にしたいという気持ちが大きいんですね。

好きな場所ですからね。「地元に錦は飾りたい」っていうね。

ESOWのペイントが外壁に施された地元・浅草の「気まぐれえりこ」

――今後のアーティスト活動で新しくやりたいことはありますか?

一度描いたのですが、銭湯の壁には今度こそちゃんと描きたいと思っています。富士山とかがよく描かれているやつですね。以前描いた銭湯は友達の実家で、もうその銭湯がなくなっちゃうってことで特別に描かせてもらったんです。蒲田の銭湯だったのですが、スプレーやら画材やらを5万円分くらい買って、1週間通い詰めて描きあげました。3日くらいで全部壊しちゃったけど。

――もったいない……! 一般公開はされなかったのですか?

公開はしていません。蒲田には大工の友達がたくさんいるんですが、その大工会社のやつらだけ見に来て「おお〜!すごいね」って言いながらタバコを吸って、ちょっとみんなでお酒を飲んだあと「これが壊されるなんてもったいないねえ」とか言いながら帰っていきました。それで終わり。さすがに写真だけは撮ってもらいましたけどね。でもその儚さが逆になんかいいですよね。

▲一週間かけて完成させた銭湯の壁画。(画集『SUI SUI ESOW』より)

――でも次はずっと残るところがいいですね。

そうですね。次はちゃんと営業している銭湯で絵を描いて、絵をバックにお風呂に入って、写真を撮って帰る。欲を言えば浅草の銭湯とかだと嬉しいですけどね。

ESOWさん、ありがとうございました!

ESOW新作アートピース「大画即書」11月発売予定!

※画像は監修中のものです。実際の仕様とは異なる場合があります。

販売予定:2024年11月
価格:未定
最新情報は中空工房Instagramまで

2024年5月@八古屋
構成・編集:水口麗

 
[プロフィール]
ESOW

1972年、東京生まれ。13歳でスケートボードに乗り出し、17歳で渡米。グラフィティに出会い、自らのルーツでもある江戸の粋に影響を受けた独自のスタイルを生み出す。浅草を拠点に国内はもとよりアメリカ、ヨーロッパ、アジアなどでも長年注目を集め続けている。表現の媒体は紙、壁、材木、立体など、幅広く柔軟。また、様々なブランドや企業とコラボレイトしている。日本のスケートカルチャーにおけるパイオニア集団「T19」、グラフィティ史に功績を刻んだ「大図実験」のメンバーでもあった。浅草地下街のアトリエ兼ショップ・ギャラリー「フウライ堂」を経て、2019年より浅草に設立した新たなアトリエを拠点として精力的に制作を続けている。