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2021.12.14

絶滅危惧種である「ファンシー絵みやげ」の保護活動を日本全国で行い、これまで調査した土産店は約5000店、保護した個体は21000種におよぶ、ファンシー絵みやげ研究家の山下メロによる、解説連載。全国行脚、個体比較、分析推察をもって、ヘンテコかわいいファンシー絵みやげカルチャーを真剣にツッコミ! 懐かしいけど斬新、ゆるいけど辛辣、そんな愉快なファンシー絵みやげの世界に誘います。

はじめに

この連載では1980年代から1990年代にかけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげ「ファンシー絵みやげ」(ファみやげ)の魅力を紹介しています。

ファみやげの定義を簡単に説明すると、3つの特徴があります。

1. 実用的なものにイラストがプリントされている
2. そのイラストはデフォルメされた偉人や擬人化した動物である
3. そしてローマ字や手書き文字で地名が書かれたり、言葉が添えられたりしている

今回のテーマは『戦国武将など、歴史上の人物』です。

なぜキャラクターが必須なのか

ファみやげのキャラクターは、その土地ならではの人物や動物が好ましいです。景勝地や建物が有名な場所は、その風景や建物を描きますが、それだけではサンリオ
などファンシーグッズに囲まれて暮らしている子どもにはウケません。

風景や建物だけを描いたキーホルダー。それでも、なぜ金のわらじに!? という疑問は発生します。しかし、この石碑の左側に稚内から樺太探検に赴いた間宮林蔵の像があり、そのわらじを意識していると思われます……。

それらを背景に、そこに誰でもないカップルや、どこにでも生息してそうな動物(キツネ、クマ、ウサギ、リスなど)を描き加えると、ファみやげになります。ファンシーグッズと同じようにキャラクターが必須なのです。


青森県・弘前城のキーホルダー。城のイラストの前には誰でもないカップルのイラスト。特に人気の武将が不在の場合は、この手法でファンシー化が行われます。

キャラクターのイラストが重要なのは、ターゲットである子どもの需要ですが、なぜ「その土地固有」が好ましいのか?その答えは、誰でもない人物や、どこにでも生息している動物よりも、その土地にゆかりのある人物や、キタキツネのように北海道だけの生き物のほうが、より、その場所らしい商品になるからです。


ドリーミーフォックスというキツネのキャラクター。主に北海道で使用されます。そのため北海道を代表する花・スズランも描かれています。


水族館やナンジャタウンがある、東京のサンシャイン60にも子ども向けのお土産があります。右はビルを描いてありますが、とりあえずどこにでもいるキツネをキャラで入れているものの、うっかり北海道のスズランのイラストまで残してしまってます。さらに左はビルさえ描かれてない上に、スズランが群生しちゃってます……。

お土産品は、その土地へ行って来たことの証拠として持ち帰る物という役割が昔から重要でした。これは、旅先で地のものを食べることや、ご当地の特産品を買って帰るのと同じです。「これ冷凍食品じゃないか?」「このお菓子、製造元見たら作ってるの違う場所じゃん!」と、お土産を買う側ももらう側も、その土地のものであるかを過剰に気にします。

前回「地名がなくてはお土産にならない」という話をしましたが、そのためには汎用的なイラストに地名だけ書いておけばいいわけです。地名があるのはお土産の基本。さらにその土地固有のイラストがあれば、よりお土産品としての格が上がるのです。

今、重要なことを言いました。
観光地としての格と、お土産品としての格は別なのです。

いくら観光地として有名だったり、人気があっても、土地固有のイラストがないとお土産品の格は下がります。その土地の「地名」という、「ブランドロゴ」しか無いからです。
お土産品の世界では、ブランドロゴよりも描かれる固有の景勝地や建物が重要。日本のどこにでもありそうな田園風景や山、海、川、などではなく、特徴的な風景が求められます。

ましてや、ファンシーショップ全盛期で、キャラクター偏重のファンシー絵みやげ時代においては、何よりキャラクターが求められます。

固有キャラクターが存在する観光地こそ、ファみやげ界の勝ち組なのです。


長野なら雪山や温泉くらい描いてもよさそうなところ、「どうせ子どもは風景に興味ないだろう……」と、地名とキツネのイラストだけしか描かれない例。

武将、大人気の理由

ファみやげのキャラクターのモチーフはざっくり分けると、動物と人物、無生物(てるてる坊主や雪だるまなど)に分かれます。どんな人物がキャラクターになるかというと、偉人や歴史上の人物、そして文学や昔話などの登場人物や作者、そして誰でもない、スポーツや趣味に興じる人、職業人などです。

その中で多くキャラクター化されるのが歴史上の人物。たとえば戦国武将や幕末の志士です。


熊本城と、有名な加藤清正のイラストを使っている兜モチーフのキーホルダー。人気の城主が存在するということで、先に挙げた弘前城との違いがハッキリと分かります。

観光地は城や城下町、寺社仏閣など歴史にまつわる場所が多くあります。そこではゆかりのある人物をキャラクターにすれば、訪れた人が記念に買いやすいというわけです。

小学生は社会の時間に日本の歴史を学びます。中学生になれば日本史。当然、修学旅行の目的地にも歴史に関する場所が選ばれがちです。図書室には歴史に関するものなら『日本の歴史』や『カムイ伝』、『はだしのゲン』などの漫画も置かれています。『信長の野望』をはじめテレビゲームとしても日本の歴史に親しみます。私の世代では機動戦士ガンダムさえも『武者ガンダム』となって日本史の入口になりました。

少し、男子寄りの目線になりましたが、ファみやげの主なターゲットは男子です。私も観光地で、歴史上のが人物がイラストになっている商品を、つい買っていました。しかも、教科書や漫画では強くて威厳があるように描かれていた戦国武将たちが、女子も買ってしまうくらいかわいらしく二頭身の子どもっぽく描かれたファンシーイラストになっていたのです。

いや……戦国武将がファンシーイラストになっただけでは済みませんでした。
もっともっと大変なことになってしまったのが、幕末の志士たちなのです。

時をかける幕末の志士

子どもが喜ぶように色々とイメージを改変されちゃっているのは、戦国武将だけではありません。時代考証なんて無視しちゃって、おかしなことになっている幕末の志士ものもあるのでご紹介します。


京都の新選組が、時代を超越してバイクに乗っちゃってます。しかも新選組の羽織りの模様でカスタムしているバイクというこだわり!


こちらも京都の新選組、こちらはスクーター。「誠クン」とネーミングは、匿名性の高い誰でもない新選組メンバーの名前として使われがち。“He is a very hyokin boy ”と書かれています。


鹿児島県/薩摩藩の西郷隆盛も、スクーターに。「SATSUMA DON」と書かれていて、なぜか「西郷隆盛」と明言を避けているパターン。


こちらは、京都の新選組が三輪車に乗っちゃってます。


福島県・会津若松の白虎隊がスポーツバイクでコーナーを攻める!後ろからは娘子軍!下のロゴにも、モータースポーツ感がしっかり入ってます!

歴史的な白虎隊も、なぜか背景が英字新聞に。日焼けしてこの色合いですが、元は右下のような色でした(値札が貼ってあった場所)。ここではスポーツバイクの他にも缶ジュースやボクシングローブが登場し、時代を超越しています!


1993年に開幕したJリーグの時代に、帯刀したままピッチに立った白虎隊。しっかりスパイクシューズを履いてます。読売ヴェルディーならぬ、白虎隊ヴォルディー。白虎隊の個人名が使われているファンシー絵みやげは非常に珍しいです!

 

ここからは、なぜか初期のSONYウォークマンと、そのヘッドフォンや腕時計をしてる歴史上の人物シリーズです。


こちらはチン選組。なんと、ウォークマンだけでなくエレキギターまで持っています。なんなら男闘呼組ともかかっているのでしょうか。


顔をズラすと鏡が出現する実用的なアイテムなのですが、ついでに大事なものも出現。

 


犬のツンにまでヘッドフォンをかけている薩摩隼人・西郷隆盛。


こちらは顔をズラしても犬がちゃんと守っている!!

時代考証は無視してまで、子どもを楽しませようという強い意思を感じますね。

次回以降もさらに色々なお土産を紹介行く予定です。お楽しみに!

山下メロ

Mero YAMASHITA
庶民風俗の研究家。バブル時代の観光地みやげ「ファンシー絵みやげ」と平成初期の文化「平成レトロ」を主に研究。著書に『ファンシー絵みやげ大百科 失われたバブル時代の観光地みやげ』(イースト・プレス刊)がある。最新刊『平成レトロの世界 山下メロ・コレクション』(東京キララ社)発売中!

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