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2022.09.29

絶滅危惧種である「ファンシー絵みやげ」の保護活動を日本全国で行い、これまで調査した土産店は約5000店、保護した個体は21000種におよぶ、ファンシー絵みやげ研究家の山下メロによる、解説連載。全国行脚、個体比較、分析推察をもって、ヘンテコかわいいファンシー絵みやげカルチャーを真剣にツッコミ! 懐かしいけど斬新、ゆるいけど辛辣、そんな愉快なファンシー絵みやげの世界に誘います。

はじめに

この連載では1980年代から1990年代にかけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげ「ファンシー絵みやげ」(ファみやげ)の魅力を紹介しています。

ファみやげの定義を簡単に説明すると、3つの特徴があります。

1. 実用的なものにイラストがプリントされている
2. そのイラストはデフォルメされた偉人や擬人化した動物である
3. そしてローマ字や手書き文字で地名が書かれたり、言葉が添えられたりしている

今回のテーマは、絵馬と祈願のファンシー絵みやげです。

観光地と祈願

ファンシー絵みやげを保護するために全国を調査していると、どんな観光地に多く売られているかがだんだん見えてきます。併設された売店が1つあるだけの観光施設よりも、外湯のある温泉街。湯上りにそぞろ歩きをする観光客が店に立ち寄るため、射的場や土産店が軒を連ねます。土産店が多く並ぶ観光地では、土産品もまた、多く作られるのです。

店が多いということは、メーカーが商品を卸すクライアントが多いということですから、売ることができる数が増えます。多くの商品には必ずかかる初期費用が存在しますので数を多く作らないと採算がとれません。そのため、店が多く、数がさばける観光地ほど土産品が作られるということになります。

ファンシー絵みやげ保護活動のために日本中の観光地を調査してきた筆者が、個人的に土産店の数が多いと感じる場所は2つ。
1つは北海道・阿寒湖の湖畔にある阿寒湖温泉です。先に挙げた通り温泉街ですね。そしてもう1つが香川県・琴平の金刀比羅宮の参道。長い石段で有名ですが、その石段の両側に土産店が数多く並んでいます。寺社仏閣の門前や参道というのもまた土産店が多い場所なのです。

宗教施設である寺社仏閣には、何かを祈願するといった性質がありまして、祈祷などの儀式だけでなく、ご利益を持ち帰ったりもします。社務所で売られているお守りやお札、破魔矢などです。同様に参道でも、そういった要素を持った土産品が多数売られてきました。ファンシー絵みやげにも、何かをお願いする、神頼みするような商品は多く、特に寺社仏閣の名入れで売られていたり、寺社仏閣で買えるお守りや絵馬などを模したものがあります。

そもそも「お土産」の語源の1つであるとされる「宮笥(みやけ)」こそが神社で配布されるご利益あるもの。お伊勢参りが人生の大イベントだった時代、近所の人から餞別をもらって伊勢神宮へ行き、そのお金でお札などを買って帰ってきて、ご利益をシェアしたのがはじまりであるという説があります。


スキーブームの頃、スキー場は出会いの場でしたし、土産店もたくさん並んでいました。こんな風にゲレンデでの縁結びを神様に願う絵馬型キーホルダーも。こちらは長野県白馬村。


縁結の神様に「ミルク色のすてきな恋が実りますように」と願う長野県・志賀高原の絵馬型キーホルダー。出会いの場であったゲレンデの白さを、ミルク色と表現しています。

そして1980年代、雑誌『My Birthday』創刊からの流れで占いや「おまじない」ブームが起こり、それらが観光地の子ども向けのお土産品に多大な影響を与えました。おみくじ、ルーレットなどの占い、相性占いといった商品が多く作られたのです。そして、絵馬の形をした「何かを祈願するもの」も、家内安全や交通安全、大願成就や安産祈願など定番のものに限らず、よりプライベートなお願いへと変化していきました。実際にモノを見ていただけば分かりますが、持ってるだけで叶うような「おまじない」に近い手軽さがあるのです。

お願いするアイテムたち

ここからは、そんな神様に祈願するアイテムたちの中から、変わったものを紹介していきます。


「金運のお守り」「お金をいくら使っても減らない様に神様お願いします」
もはや金運といったレベルを超えて、無尽蔵にお金が使えるという、むしろ行き過ぎなお願いでは……。


「交通安全の神様」「プロ級の私だけどまんがいちの時はよろしく!」

「よろしく!」って、神様に馴れ馴れしいタメ口!
大体においてお願いは敬語なので珍しいですね。
自動車がサングラスをしてる感じも面白いです。


満点祈願をする……色からするとブタさんでしょうか。「満点がダメなら……それに近いのでよろしいので……」という奥ゆかしさ


「混浴の神様」「どうか神様、かっくいいあの人といっしょにおふろに入れますように!」

「かっくいい」の響きに1980年代を感じますね。

そもそも「混浴の神様」なんているのでしょうか……かなりニッチな神様ですね……。


縁結びの神様に「きれい好きなぼくに、きれいな彼女を!!」と願う小坊主キャラクター。小坊主といえばお寺の掃き掃除や境内の雑巾がけということで「きれい好き」ということなのでしょう。しかし、より「きれいな彼女」に相応しいはずであるとアピールするアドバンテージになるのでしょうか……。


「どうか神様わたしのこのちっちゃな愛をあの人に伝えて……」
普通のお願いなのですが「伝えるだけでええんか!?」って思ってしまいます。
伝えるくらい勇気だして手紙でも渡したらいいのではないか……。
せっかく神様使うなら、いっそ「恋人にしてください」でいいような……。


「勇気の神様」「あとひと押しなんです。神様あたしに勇気をちょーだい!」


「勇気の神様」「神様おねがい、どうかあの人に愛を告白する勇気を下さい!」

相手が勇気の神様なのでしょうがないのですが、愛の告白さえできれば良いとは奥ゆかしい……。告白が成功するように恋愛の神様に頼めばいいようにも思うのですが……。


「恋人志願」「どうか神様、彼だけには私が美人に見えます様に」

いやいや、彼だけに美人に見えれば良い!?

いっそみんなから美人に見えれば良いのでは?
というか、「見える」じゃなくて実際に美人にしてもらったほうがいいのでは!?
それどころか「恋人志願」なので「彼の恋人にしてください」で良いのでは!?


福岡県・学問の神様、菅原道真公の太宰府の絵馬!
「学業成就の神様」
「知らないことがたくさんあってもかまいません、テストにでる問題とわたしのステキな人のことだけは知らないことのないようにして下さい。お願いします。」

文章がややこしすぎる!!

テストにでる問題をぜんぶ知ってても解けるとは限らないし、ステキな人のことを何でも知ってても恋愛が成就するとは限らないし……。
最初からシンプルに「テストで100点!」
「素敵な人とうまくいきますように!」でいいのでは?


いきなりの
「お願い神たま」
神様に向かって神たま!
「後輩のあの子と同級生になるのだけは許して下さい!」
落第する気まんまん!
というか、神様に許可とる必要あるのか!?


河口湖の交通安全祈願キーホルダー。
「どうか神様たとえいねむりをしてもおまわりさんにだけはつかまらぬようお守りください」

……いや、交通事故で死んだりすることは怖くないのか!?


「『どうか神様』
ふるだけで頭がよくなる小槌、どこかにないでしょうか。」

どこかにないでしょうか!?

「小槌をください」でいいでしょう

「ないですよ」って返事がきたり
「どこどこにありますよ」って
ある場所教えられるだけの可能性も……。

じゃあ、仮に「小槌をください」でもらえたとしても
わざわざ振るだけで頭がよくなる小槌を振るようなまわりくどいことをせずとも、単に最初から「頭をよくしてください」で良いのではないか……

こんな風に昭和末期から平成初期の若者たちは、謎の遠回りなお願いをしていたのですね。この奥ゆかしさは、もしかしたら現代の我々も忘れてしまった大事な部分かもしれません。なんでもダイレクトに要求せず、たまには回りくどいお願いをしてみましょう。近道ばかりせず、たまに遠回りしてみると意外な発見があるように、人生が変わるかもしれません。

山下メロ

Mero YAMASHITA
庶民風俗の研究家。バブル時代の観光地みやげ「ファンシー絵みやげ」と平成初期の文化「平成レトロ」を主に研究。著書に『ファンシー絵みやげ大百科 失われたバブル時代の観光地みやげ』(イースト・プレス刊)がある。最新刊『平成レトロの世界 山下メロ・コレクション』(東京キララ社)発売中!

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