山下メロのファンシー絵みやげ天国

05 大河ドラマでブレイクする観光地

山下メロ

絶滅危惧種である「ファンシー絵みやげ」の保護活動を日本全国で行い、これまで調査した土産店は約5000店、保護した個体は21000種におよぶ、ファンシー絵みやげ研究家の山下メロによる、解説連載。全国行脚、個体比較、分析推察をもって、ヘンテコかわいいファンシー絵みやげカルチャーを真剣にツッコミ! 懐かしいけど斬新、ゆるいけど辛辣、そんな愉快なファンシー絵みやげの世界に誘います。

はじめに

この連載では1980年代から1990年代にかけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげ「ファンシー絵みやげ」(ファみやげ)の魅力を紹介しています。

ファみやげの定義を簡単に説明すると、3つの特徴があります。

1. 実用的なものにイラストがプリントされている
2. そのイラストはデフォルメされた偉人や擬人化した動物である
3. そしてローマ字や手書き文字で地名が書かれたり、言葉が添えられたりしている

今回のテーマは前回に引き続き『戦国武将など、歴史上の人物』です。

まず観光地には歴史が重要

観光地へ行けば何かと立札や石碑が立っていて、そこに来歴が書かれています。

別にその土地に興味がなく、単に有名だから行ってみた場合でも、とりあえず立札なんかに書かれていることをフムフムと読んでみたりします。大体において興味がないとまったく頭に入ってこないんですけども……。さらに今ではスマホで簡単に写真が撮れますから「とりあえず!」(これは映画『私をスキーに連れてって』で写真撮る時のセリフ)で、「後でじっくり読もう」なんて言いながら説明の書かれた板を撮影して、絶対にそれをスマホの小さい画面で読み返すことなんか無かったりします。


宮城県鳴子町・鳴子温泉に掲示されていた地名由来の看板

これは、単なる歴史などに興味がない人あるあるといったところですが、やはり旅というのは目的地が必要。単なる木でも「樹齢〇〇年」であるとか「〇〇年に落雷して上部が崩落し、それが大洪水を防いだと言い伝えられる」とか「なんか根っこが大蛇に似てない?」とか、なんかしらあると良いのです。ただ集まりたいだけのグループが、やれ「〇〇の祝い」だとか理由をつけて集まるのに似ています。何も無い場所にも自分で目的を見つけ出せるタイプの人以外は、みんな理由が欲しいのです。理由はなんでもいいけど、歴史的であればあるほど、なんとなく「良いモノ」を見た気になれます。観光地には歴史が重要なのです。

修学旅行にも歴史が重要

その来歴を説明すると言えば、修学旅行や観光バスのガイドさんもそうですね。バスの車内でも停車していられない場所の説明をし、お寺なんかで降りると旗を持って誘導し、説明をしてくださいます。

ファンシー絵みやげは子ども向けの商品ですから、修学旅行生は重要なターゲット。実際に「修学旅行記念」とまで書かれたファンシー絵みやげのキーホルダーまで存在するほどです。


修学旅行生のためだけに作られているキーホルダー

修学旅行はその名の通り学びの旅なので、学校の勉強の延長線上になくてはなりません。そこで、目的地になりやすいのが日本史にまつわる場所です。お城と城下町、それから寺社仏閣などですね。あとは古典文学の舞台や平和教育に関する場所などが挙げられます。

団塊ジュニア世代が子どもの時代であり、子どもの数がひときわ多い時代に、大挙して修学旅行生が次々とやってきます。しかも、それなりの額のお小遣いを握りしめて。

そんな状況なので、京都・奈良など歴史的な場所が多いエリアでは、子どもが欲しがる商品を、子どもが買おうと思う値段で売ることが重要だったのです。たとえば京都では、新選組や坂本龍馬をモチーフにしたファンシー絵みやげが多数作られました。


新選組・誠くんのお見合い写真キーホルダー。お嫁さんに来てチョンマゲ~というセリフに当時の空気が漂います。

修学旅行の目的地は、なんとなくその学校からそこそこ遠いエリアの歴史に関するメジャー観光地といったところで、目的地は毎年のように同じだったりします。しかし、修学旅行の目的地以外で、歴史上の人物のファンシー絵みやげが爆発的に作られるケースがあるのです。

大河ドラマでブレイクする観光地

筆者もバブル景気の頃に住んでいた川越。ここのファンシー絵みやげは当時も今も見たことがありません。今でこそメジャーな観光地ですが、90年代まではそうでもなかったようです。かつては観光協会すらなかったとか。そんな川越が観光地化していったのは、1989年に放送された大河ドラマ「春日局」の影響でした。

「春日局」の舞台が川越という訳ではなく、川越大師・喜多院に「春日局化粧の間」が移築されているというのが理由です。それほどまでに大河ドラマの影響は大きかったんですね。

これまで観光に力を入れてなかった川越は、増えてゆく観光客に応じる形で観光地へと姿を変えていきました。


このように川越のキーホルダーは多数見つかるけれど、ファンシー絵みやげと呼べるタイプのイラストを用いたものは見つかっていません。

バブル絶頂期だった1989年の放送時点では、川越は観光地としての態勢が整っておらず、商品開発していく頃にはファンシー絵みやげが衰退に向かってたのではないかと推測され、いまだに川越のファンシー絵みやげは見つかってません。(情報求む!)

しかし、ちょうどファンシー絵みやげが作られた1980年代~1990年代初頭の大河ドラマは、観光地を次々と盛り上げ、まつわる歴史上の人物のファンシー絵みやげも主に非公式なものを中心に多数作られました。

そんな大河ドラマを振り返りつつ、実際の商品や、行き過ぎた商品を紹介していきたいと思います。

大河ドラマのファンシー絵みやげ

ファンシー絵みやげが売られていた時代の大河ドラマを時系列で見ていきましょう。

 
1982年「峠の群像」

赤穂浪士の時代劇といえば、かつて年末年始の風物詩だった「忠臣蔵」が有名ですが、大河ドラマでもテーマとして扱われています。東京都・品川の泉岳寺や兵庫県の赤穂でファンシー絵みやげが売られていました。

地名は書かれていませんが、赤穂浪士という言葉に「赤穂」という地名が含まれており、地名の役割も果たしているとともに、赤穂以外の関係する観光地で売ることも出来ます。

 
1987年「独眼竜政宗」

青葉城のある宮城県の仙台や松島では、伊達政宗が主要なキャラクターとして使われています。中でも「DATE MASAMUNE」や「MASAMUNE KUN」ではなく、大河ドラマを意識したと思われる「DOKUGANRYU」表記のあるものも。

こちらの政宗くん。まず馬がリアルすぎて、政宗くんとの世界観が違い過ぎます……。

そして後ろはおそらく青葉城なのですが、地平線にあり、この何もない荒野は一体……。

こちらの政宗くんは、馬のタッチがリアルでなくなったものの、なんと座っており「お手」をしています……。

 
1988年「武田信玄」

山梨県では、地域固有のキャラクターとして武田信玄をモチーフにした商品が多数作られました。

信玄君、レッツらゴー。久々に聞きました「レッツらゴー」。もう死語でしょうか。たぶん「Let’s Go」を変化させた当時の言葉です。

 
1989年「春日局」

前述の通りファンシー絵みやげは存在しませんが、川越では「NHK大河ドラマ」という表記を入れた通行手形が売られていました。

裏側にはリアルタッチで描かれた春日局化粧の間のイラストが描かれています。

 
1990年「翔ぶがごとく」

西郷隆盛と大久保利通のドラマ。最近の「西郷どん」のイメージが強いかもしれませんが、平成初期にもありました。

鹿児島県全体で西郷隆盛キャラクターや、薩摩おごじょとペアになった商品は数多く見かけますが、大久保利通とペアになったものが一部存在します。これらは大河ドラマに合わせて作られたものと推測されます。

左は「翔ぶが如く」のタイトルが書かれているキーホルダー。右にはタイトルが入っていません。しかし、いずれもドラマで演じていた西田敏行と鹿賀丈史に寄せてしまってます。歴史上の人物そのものではなく、演じている役者を意識したイラストというのは非常に珍しいです。

 
1991年「太平記」

栃木県足利市では「太平記」のタイトルが入ったキーホルダーが売られました。

左は「太平記」の実際のロゴを使用しており、NHKの許諾品と思われるが、しっかりイラストがファンシー絵みやげになっています。

なんと、当時流行したリゲインのCMキャッチコピー「24時間戦えますか」がそのまま使われています。「JAPANESE WAR」

 
1992年「信長 KING OF ZIPANGU」

織田信長にまつわる観光地は多いものの、実際に信長をモチーフに使ったファンシー絵みやげは少なめです。中でも岐阜県では「信長くん」と書かれているものの「KING OF ZIPANG」というタイトルの一部を取り入れた商品を作っていました。

 
1993年「炎立つ」

奥州藤原氏ということで、岩手県に関連商品が見つかります。

このように本体とは別にシールを貼ったタグを使うケースは、本体に地名を書かず、タグに地名を書いてどの観光地でも販売できるようにしたものが多いです。しかし、今回は本体が立体的なので、番組名を書く場所がなかったためにタグを利用しているように見受けられます。

そして、「炎立つ」のオープンセットがあった場所は、その後に「えさし藤原の郷」というテーマパークとなりました。

「えさし藤原の郷」にはファンシー絵みやげに通じるイラストのキャラクターがいて、商品も多数存在します。

2017年の「おんな城主直虎」ののぼりが。えさし藤原の郷でロケが行われたのでしょう。

では、最後に特に色々とおかしい西郷隆盛ソロの商品を紹介いたします。

全裸で「チェストー!」と言いながら「PU!」とおならをする西郷隆盛。鹿児島とだけ書かれていて誰かの明記はされていませんが……。地元を代表する偉人とは思えないほどに「子どもが喜ぶギャグ」的な方向の扱いを受けてしまっています……。

さらには、こちらもどうぞ。


「さいごうどん」!

このベタすぎるダジャレの商品が存在したとは……!!

しかも、よくイラストで表現したものですね。
 
大河ドラマは、確実に観光やお土産品に影響を与えていましたね。今後、さらに時代の空気を感じられるファンシー絵みやげを紹介していきたいと思います。
 

山下メロ

山下メロ

Mero YAMASHITA
庶民風俗の研究家。バブル時代の観光地みやげ「ファンシー絵みやげ」と平成初期の文化「平成レトロ」を主に研究。著書に『ファンシー絵みやげ大百科 失われたバブル時代の観光地みやげ』(イースト・プレス刊)がある。最新刊『平成レトロの世界 山下メロ・コレクション』(東京キララ社)発売中!