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2022.06.13

絶滅危惧種である「ファンシー絵みやげ」の保護活動を日本全国で行い、これまで調査した土産店は約5000店、保護した個体は21000種におよぶ、ファンシー絵みやげ研究家の山下メロによる、解説連載。全国行脚、個体比較、分析推察をもって、ヘンテコかわいいファンシー絵みやげカルチャーを真剣にツッコミ! 懐かしいけど斬新、ゆるいけど辛辣、そんな愉快なファンシー絵みやげの世界に誘います。

はじめに

この連載では1980年代から1990年代にかけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげ「ファンシー絵みやげ」(ファみやげ)の魅力を紹介しています。

ファみやげの定義を簡単に説明すると、3つの特徴があります。

1. 実用的なものにイラストがプリントされている
2. そのイラストはデフォルメされた偉人や擬人化した動物である
3. そしてローマ字や手書き文字で地名が書かれたり、言葉が添えられたりしている

今回のテーマは、平和と戦争のファンシー絵みやげです。

修学旅行と平和

筆者は広島市で生まれたため、学校では戦争教育を受けてきました。毎月、学校の集会では反原爆の唄を歌い、色々なビデオを観て、折り鶴を折ったのです。今回は修学旅行で広島に来た学生向けの商品の話について、広島で学んだこともふまえて考えていきたいと思います。

ファンシー絵みやげの主なターゲット層の1つが、修学旅行生。目的地としてメジャーな観光地では、たくさんのファンシー絵みやげが発掘されます。修学旅行はその名の通り学びの旅であり、日本史に関わる寺社仏閣などの現地に赴き、教室で教科書を見ているだけでは得られない学びを体験するといった目的があります。その中には近代史としての戦争を学ぶ、平和教育もあります。

ヒロシマとナガサキの違い

原爆が投下された広島と長崎は、どちらも修学旅行における定番の目的地。
それぞれ平和記念公園、平和公園があり、原爆に関する資料館があり、戦争と原爆のことを学ぶことができます。

象徴的な目的地として、広島では原爆ドーム、長崎では平和祈念像が有名です。それぞれ、被爆した広島県産業奨励館を原爆ドームとして被爆遺構を残すことにした広島と、浦上天主堂を一部を残して取り壊し、建て替えることにした長崎という両者の違いがあります。この部分は、お土産品においてより明確になります。

長崎におけるファンシー絵みやげイラストに描かれるキャラクターはバテレンやシスターなどが多く、背景も観光スポットである大浦天主堂が定番です。

戦争や原爆をモチーフにしたファンシー絵みやげは見つかりません。平和祈念像が北村西望の作品であり、これを二頭身にして、さらにカワイイものとしてデフォルメする訳にはいかないという理由もあったでしょう。


平和祈念像は、基本的にリアルなタッチで表現されます。


オーロラカラーなどで派手に表現されようと、基本は写実的です。


ほんの少しだけ、このように簡略化された表現が存在します。

ただ一部の商品では「PEACE TOWN」など「平和」という言葉は使われており、描かれているのは大浦天主堂でも、シスターが「平和を祈っている」という体裁をとったものが存在します。


LOVE&PEACEとして平和を祈るシスターと大浦天主堂が描かれています。


こちらも同じく LOVE&PEACE。大浦天主堂はリアルタッチですが、シスターはデフォルメされています。

対する広島では、宮島と平清盛という組み合わせのファンシー絵みやげが多いものの、宮島だけで売られる「MIYAJIMA」と書かれたもの以外では、とにかく原爆ドームが描かれることが多いです。

被爆遺構をどうファンシーにするか問題

ファンシー絵みやげ商品を製作する場合、その土地固有のデザインにするためには、土地固有のキャラクターを使う場合と、土地固有の景色の前に、土地固有ではないキツネやカップルのキャラクターを配置する場合があります。

広島市で使われる固有のキャラクターは、厳島神社にゆかりの深い平清盛なのですが、鹿や神主・巫女などとともに、宮島の地名とともに採用されることがほとんどです。

宮島の地名があるものは主に宮島の中でだけ売られるため、本土広島市で販売する固有のファンシー絵みやげには、できれば平清盛ではないものを描きたい。しかも平和教育で広島に来る修学旅行生にとっては原爆ドームのイメージが強いわけです。原爆ドームは昭和からのものなので、平清盛も毛利元就も時代が合わず、訪れたカップルを描いたものが数多く見受けられます。

ただし、ファンシー絵みやげの抽象化したタッチに対し、原爆ドームが合わないという重大な課題があります。原爆ドームが被爆遺構というアイデンティティーを考えると、ツルッとしてカワイイ建物に抽象化することはタブーとなるのです。


原爆ドーム単体の場合は、このように写実的に表現されることが多いです。これをどうやって抽象化したキャラクターと組み合わせれば良いのでしょうか。

正しく歴史を伝えるために、そのひび割れや焼けた跡などを消せない。しかし、子どもに買ってもらうために漫画っぽく描いた軽いタッチのデザインに仕上げたい。色々な描かれ方をする原爆ドームから、そんな逡巡が浮かび上がってくるのです。

では、そんな中から色々な原爆ドームの描かれ方を見ていきましょう。


これがまさに広島に来たカップルを使った例。厳島神社の鳥居と原爆ドームが並んでいます。原爆ドームがかなり簡略化されている上、ドーム部分だけで全体が見えません。あとそこにとまっている鳩がデカい。どうしても小さく描くと鳩と分からないので誇張したのでしょうが、どう考えてもデカすぎます。


こちらは似たような構図で、ウサギのカップルになっているバージョン。原爆ドームの下の方まで描かれています。のっぺりした壁面に黒い窓を並べていく形のデフォルメ。


これはカップル+原爆ドームながら、原爆ドームはリアル方向で描かれています。しかしなぜか原爆ドーム部分をギラッギラのホログラムで表現してド派手に仕上げています。ピカ的な閃光をイメージしているのでしょうか……。
当時子どもが夢中になっていたビックリマンの当たりシール的な要素を入れて、子どもが興味を持つようにしているのかもしれません。しかし、さながらディスコティックのダンスフロアです。


かわいい文字で「平和が一番!」と書かれています。なんとカップルですが、窓から原爆ドームを見ているという構図。いや、なんなら見ていない。どんな立地の家なのか。いや、カップルは靴を履いていて、窓の鎧戸が手前に開いているということは、こっちが外で、原爆ドームが家の中なのか!? 謎が多い。
ちなみに窓の外(中?)は暗いですが、これは温めると絵が浮かび上がってくるという特殊な印刷になっています。


金の線で見づらく描かれたカップル。そして原爆ドームは半立体でリアルな金のパーツ。もはや世界観が違い過ぎます。しかし原爆ドームは丸で囲われて「ここは別世界」ともとれる表現がなされています。


方言で行って来たことを伝えるシリーズ。こちらはカップルでなく1人。原爆ドームのドーム部分のみがクローズアップ。ドーム部分が波打っている。そして謎の巨大な鳥。もはやこの鳩とは思えないサイズ感です。


原爆ドームを背に鳩にエサをあげるカップル。いや、エサを上に放り投げている!? 鳩がそれを空中キャッチ!? ……できるわけない……ので、これは鳩がフンを落としているのではないか
この原爆ドームのタッチはそこそこに簡略化されていますが、ドーム部分がなぜか東京ドームっぽい網目状になっています。


平和都市の文字と、ミュージシャンが描かれています。何しろ、原爆ドームを黄色、グリーン、ピンクという派手な3色で塗っているのが特徴的です。実物はほとんど色味がありませんので、かなり誇張していると言えます。


「すきです広島」カップルと、鳩……ではなくカモメ!?
原爆ドームもかなり漫画タッチに仕上げていますが、どうもこんな構造だったのかと不安になるほどです。


キャラ不在でもファンシーな雰囲気のもの。原爆ドームがまっピンク


キャラ不在。そこそこリアルなタッチの原爆ドームだけど、白・黄色・ピンクで派手に表現されています。


キャラ不在で、鳩の代わりに折り鶴が飛んでいます。こちらは白・水色・オレンジで背景はピンク!なぜか三色の鈴つき。


これまでデカい鳥がドームにとまってたことはありましたが、こちらはデカい折り鶴。鶴なので鳥ですね。とにかくドームにデカい鳥を置きがちなのか……。原爆ドームは白・水色・黄色で表現されています。


「もう2度と 起こしません! LOVE&PEACE」メッセージ性が強い切符型のキーホルダー。

原爆ドームも簡略化されているものの、建物のサイズ感がリアル。さらに色も、完全に色のないグレーで塗られているのも、むしろ珍しい。

原爆ドームをグレーに塗ることは定番のはずなのですが、ファンシー絵みやげでカラフルに塗られてしまうのは、やはり子どもに興味を持ってもらうためなのでしょう。


「夢をください」と空に、いや、夜空の星に祈る女性。しかし、原爆ドームはヤシの木が生えたビーチに建ってます。そんなところには建ってないはずなのですが……。
確かに近くに川が流れていて、水辺ではありますが、これ水平線が見えてるんですよね……。

さて、まあ立地がおかしいのですが、このイラストで特筆すべきは原爆ドームにヒビを描いていることです。確かに原爆ドームは被爆して損傷しているわけなので、ヒビなどあるはずなのですが、これまではデフォルメによってツルッとした建物になっていました。

しかし、このキーホルダーでは、あえて簡略化したところにヒビを描き、これは被爆建造物であるという印象を与えているのです。

今回、紹介しきれないくらい大量にある原爆ドーム関連キーホルダー。そこからいくつかピックアップしただけでこれだけ表現に幅があります。原爆ドームの被爆建造物という立ち位置と、それでも子どもに興味を持ってもらい買ってもらわなければいけないという営利目的の販売物であるという立ち位置。その2つのバランスで色んな表現が生まれているのです。

広島出身者として、この原爆ドーム表現については追いかけていきたいと思います。

さて、流れで広島の平和に関するキーホルダーをあと少し見ていきましょう。


ファッショナブルで、リアル頭身な男子のイラスト。HAPPY TOGETHERなど英語をちりばめて、オシャレなデザインにしているはずが、突然の「平和が一番いい」という和文。もはや原爆ドームも描かれていないのですが、広島のお土産において「平和が一番いい」という言葉は、デザインを崩してでも外せなかったのでしょう。


「広島男一匹」キーホルダー。広島といえば、任侠映画の舞台……というわけでヤクザ者っぽいキャラクターが一升瓶を持って酒を飲んでいます。その酒のラベルに「平和」……


さらにヤクザ者三人衆のイラストを使ったキーホルダー。「平和はわしらが守る」と書かれています。任侠映画の舞台であり、平和都市である広島らしさ全開の素晴らしいアイディアですね。


硬い素材の折り鶴2つがくっついたモービル。ジェフ・クーンズもびっくりのメタリックに光る折り鶴です。それは良いとして、上に書かれている言葉の軽さよ。

「がんばってネ!ひろしま」

誰から誰へのメッセージなんでしょうか。
当時のオリックス・ブルーウェーブ(神戸)が、阪神淡路大震災のあと「がんばろうKOBE」という文字をユニフォームに付けていましたが、それとの差がすごい。

「がんばろう KOBE」
「がんばってネ!ひろしま」

広島のほうは完全に他人事である。

戦闘機のファンシー化

太平洋戦争においては、特別攻撃隊についても触れなければなりません。


有名な神風特攻隊に由来する「神風」「特攻」というワードは暴走族の世界でも使用されています。そのため、こういったヤンキーをモチーフにしたファンシー絵みやげにも文字が使われているのです。

中でも知覧特攻基地のあった鹿児島県・知覧には特攻隊に関する施設・知覧特攻平和会館があります。


特攻隊員の像のイラストと桜、戦闘機のパーツが閉じ込められた知覧のキーホルダー。

特攻隊員の像や、特攻平和観音、戦闘機・練習機の展示などがあり、知覧に関するグッズでは戦闘機がデフォルメされています。


平和会館の周辺は特攻平和公園となっています。ここでは戦闘機がデフォルメされて描かれています。

さらにはこんなものまで……。


知覧のネームタグがついたこちらは、完全に戦闘機を丸っこく、二頭身のように縮めてしまっています。

そして、なんともいえない場所にラインストーン

もはやパッと見で戦闘機とは分かりません……。

子どもに興味を持ってもらうためには、戦争のリアルさや残酷さよりも、親しみやすい印象や手触りが重要だったということがよく分かりますね。

今回のテーマでファンシー絵みやげを見ていくと、どこででも売ることができるカップルやウサギのイラストと地名だけにせず、きちんとその土地の、戦争に関する要素を描いてきたということも分かりました。

次の世代へどのように戦争を伝えるかということは、当時も今も変わらず重要な課題であると改めて感じます。表現に悩んでるようでも、ファンシー絵みやげに平和へのメッセージは強く含まれていました。これらが令和の今、また人の目に触れることで、平和な未来に繋がってくれたらと思います。

山下メロ

Mero YAMASHITA
庶民風俗の研究家。バブル時代の観光地みやげ「ファンシー絵みやげ」と平成初期の文化「平成レトロ」を主に研究。著書に『ファンシー絵みやげ大百科 失われたバブル時代の観光地みやげ』(イースト・プレス刊)がある。最新刊『平成レトロの世界 山下メロ・コレクション』(東京キララ社)発売中!

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