編集者にして無類の“バックヤードウォッチャー”である今井夕華が、さまざまな施設、企業、お店の“裏側”に潜入して、その現場ならではの道具やレイアウト、独自のルールといったバックヤードの知恵をマニアックに紹介する連載企画。
表舞台編
こんにちは。編集者でバックヤードウォッチャーの今井夕華です。歯医者さんって、地域密着系の昔ながらのところから、高級感あふれるピカピカの審美歯科まで、けっこう色々ありますよね。何を基準に選べばいいか分からない。そんな人も多いかもしれません。
今回お邪魔した石原総合歯科医院は、聞いて驚くなかれ。歯科部門では日本で6人だけの「第一種滅菌技師」という資格を持った、清潔番長がいるものすごい歯医者さんなのです。

お話を聞いたメンバーはこちら。写真の中央左が、日本に6人しかいないものすごい人、副院長の佐藤さんです。一番左が院長の石原さん。中央右が筆者で、一番右は、株式会社名優の代表で、再生処理(洗浄・滅菌)のプロダクトブランド「SALWAY」を運営する山根さん。
今回は今まで知らなかった「再生処理」の話と、石原総合歯科医院で働く人たちのゆかいなDIY精神についてお届けします!
舞台裏編

歯医者さんのDIY精神
再生処理って、聞き馴染みのない言葉ですよね。
たとえば病院で使われるハサミや内視鏡、ピンセット、歯医者さんなら歯を削る機械など。どれも使い捨てではなく、洗って清潔にしてから繰り返し使われています。それが「再生処理」。
器具は血液や唾液が付くものだから、しっかり綺麗にしないといけません。でも日本では再生処理の重要性や専門性があまり理解されていなくて、世界で最も進んでいるといわれるヨーロッパと比べると、まだまだな面もあるんだとか。
そんななか、業界トップクラスで再生処理を頑張っている、ものすごい歯医者さんが群馬の前橋にあるよと、SALWAYの山根さんに教えてもらって、向かったのが石原総合歯科です。
前橋駅から車ですぐ。見た目は普通の、まちの歯医者さんです。前橋出身だけど、全然知らなかったなー。

診療室に進むと、木のパーテーションが目を引きます。聞けば、院長の石原さん自ら、閉店する軽井沢の雑貨屋さんからもらってきたものだとか!「電動ドライバーでお店の壁から外して、ハイエース借りて持ってきたんですよ。設置してみたらサイズもちょうど良くてね」とサラリ。え、DIY精神すご。

もともと店舗用だったからこそ、棚板の設置も楽々。掛けてあるのは、使い捨て手袋と、使い捨てエプロン、折りたたみ椅子など。見せる収納で分かりやすい!
診療台まわりの各種消毒液はテープで色分けして、S字フックで引っ掛けています。血液残りや匂いにはオキシドール、全体の消毒にはエタノール。唾液を吸うバキュームの持ち手や、歯を削るモーターのホースなどには次亜塩素酸を、と使い分けています。
診療台はこんな感じ。院長が持ってきた木のパーテーションも大活躍。落ち着く空間になっています。

顕微鏡はなんとライカ製! カメラのイメージが強い会社だけど、レンズ関連ということで顕微鏡も手掛けています。これはミドルグレードのもので、だいたい500万円くらい。安いものは200万円くらいからあって、高いものだと1000万円するものも。
カメラマンの沼田さんは、歯医者さんや病院に行くと、どこの機材かよくチェックしているそう。オリンパス製も多いんだって。
仕組みづくりで効率化
1日に60人ほどの患者さんがやってくる石原総合歯科医院。一般的な歯医者さんは30〜40人ほどなので、倍近くの人数を見ている人気歯科です。
そんななかでも混乱なく、一人ひとり丁寧に処置するための工夫がありました。
パーテーションに貼られた四角いカード。これ、実は診察台ごとの色分けなんです。

器具や道具にも同じ色の四角を貼り付けて、この診察台はこの色、と決めておく。数字だと見て考える時間が生まれてしまうけれど、色分けなら、感覚的に元あった場所へパッと戻せるという仕組み。
誰でもミスなく正確に、そして簡単に戻せて、「無駄に考える時間」を減らす。ナイス、ユニバーサルデザイン! 職場において「本業」に集中できる環境をつくることって、すっごく大事ですよね。

転用力があっぱれな二人
診察台の棚には、佐藤さんお手製の清掃チェックリストが。え、待って待って。よく見たらまな板なんですけど!
「そうそう(笑)。私がまな板を使ってつくったの。買い物してたときにちょうど良さそうだなって見つけて。使い方は意外に色々ありますよね」
院長に続き、佐藤さんもDIY精神が素晴らしい! 確かに、程よい厚みのプラスチックだから書くときも丈夫だし、角丸だから子どもがいる場所でも安心して使える。穴も空いていて引っ掛けやすいときた。

小さく切られたチェックシートを、テープで直接貼り付けています。まな板だから、剥がしやすいのも嬉しいポイント。
佐藤さんが特にこだわったのは、誰でも同じように清掃、補充できること。「少し」などざっくりした言葉は人によって感覚が違うから、「口腔歯列の説明用紙10枚」とか「カートリッジ5本」などと具体的な数値を書くようにしたら、チェック漏れがなくなったそう。
こちらも、ナイス、ユニバーサルデザイン!

道具の転用は、院長も大得意。これは院長が上州屋で見つけてきた釣り具用ケースです。歯列矯正の器具「ブラケット」がジャストフィット。
ケースを入れるストッカーも、同じく釣り具に強いメーカー、MEIHOのもの。佐藤さんも院長も、楽しみながら工夫しているのが素敵だなー。

ラップで包んでガードする
歯の詰め物に使う樹脂は、全部ラップに包まれています。ラップは院長のこだわりで、カインズの「ピタッと貼り付く食品ラップ」をセレクト。高いラップ=良いとかじゃないんだ。
消毒液で拭いたら綺麗になるイメージだったけど、使い捨てのラップを使う方が実は衛生的。ちなみに、一般的な歯医者さんでよく使われている消毒液は基本的につくり置きで、24時間で殺菌作用がなくなるから、しっかり管理しないとほとんど意味がないそう。

院長や佐藤さんが取り組む「感染管理」の考え方では、歯医者さんに来る人も、働いている人も、全員に感染症の可能性があると思って対策をしているんだって。だからこそ、再生処理をしっかりとやる。
分かりやすい感染症だと、たとえばコロナウイルス。あとは、血液が付着した治療器具を通して感染するB型肝炎や、HIVなど。全員が対象って大げさな!って思うけど、何しろ菌は見えないし、無症状の期間もあるから万全にしておくのが大切なんだって。
うつっちゃう可能性もあるし、自分からうつしちゃう可能性だってある。みんな他人事ではないんだな。

洗えているか、しっかりチェック
じゃじゃん!これが、実際に再生処理をしている現場。なんか見たことある器具たちだ!
治療で使ったあとは、まず洗浄液に浸けて汚れを分解。ブラシで洗ったあと、食洗機のような「洗浄器」に入れてよく洗う。その後、薬液や熱湯を掛ける「消毒器」と、高圧で蒸気を掛ける「滅菌器」を経て、ようやく再生処理完了。
まあ確かに、この感じの金属製の器具はさすがに使い捨てしないかとも思うけど、再利用する工程も結構手間だよね。
病院だと、再生処理をする部屋や部門があって「中央材料室」と呼ばれていたり、別会社に委託されていることもあるとか。ヨーロッパでは再生処理する人の地位が高くて、病院の先生くらいに重要なポジションなんだって。

オレンジの枠がついた「青い六角形」にご注目。これは、洗えているかをしっかりチェックしてくれる道具「洗浄工程インジケータ」。ポップな色合いが可愛い。
洗い物を入れるバスケットに付けておいて、洗った後にこの青い部分が白くなったら、中の物もちゃんと洗えているってわかるスグレモノです。

歯の型をとるやつも発見! こうして見ると、レモン絞り器にも似てますよね。棚の奥に貼り付けられたフックで、網棚化して収納。穴が空いてるからちょうど掛けられるんですね。口に入れられたことしかないから、じっくり見たことなかった。
ペンチ類はA型のスタンドに掛けられて、刃先が傷付かず安全に収納されています。調べたら「プライヤースタンド」っていう専用の商品があるんだ。こういう業務用のもの、調べるの大好き。世の中には知らない道具がいっぱいあるんだなーって、壮大な気持ちになります。

清潔にこだわる良い歯医者さんの見分け方
最後に、良い歯医者さんを見分けるポイントをいくつか教えてもらいました。私たちが歯医者さんを選べるようになって、歯医者さんの感染対策の意識ももっと高くなったらいいな!
① 半袖を着ていること
▶腕は「高度汚染部位」になりやすい。肘までしっかり洗えることが重要。
② しっかりした靴を履いていること
▶つま先が出ているサンダルは、器具が落下したときの感染対策ができていないので危険。
③ 土足で入れること
▶医療機関がスリッパにする理由は掃除が楽だから。スリッパのところは掃除にまで気が回っていないケースもある。
今回お邪魔してみて、石原総合歯科医院のバックヤードは、DIY精神と、安全性向上のための小さな工夫の積み重ねがぎっしり詰まった場所だと感じました。再生処理のことも、感染管理のことも、初めて知ることがいっぱいだったな。
佐藤さん、院長、山根さん、石原総合歯科医院のみなさん、お邪魔しました!

佐藤 繭美(写真中央)
Mayumi SATO
医療法人社団 石原総合歯科医院 副院長 / 歯科衛生士 / 第1種滅菌技師
歯科衛生士として石原総合歯科医院に勤務。歯周病やインプラントケアの資格に加え、第1種滅菌技師を取得。感染制御学の修士課程を修了し、現在は群馬大学大学院 医学系研究科 博士課程に在籍。副院長として臨床と研究、医院運営に携わっている。主な著書に『歯科診療所のためのエビデンスのあるハイパー感染管理』などがある。
https://meilleur.co.jp/salway/journal/sato-mayumi
石原 宏一(写真左)
Koichi ISHIHARA
医療法人社団 石原総合歯科医院 院長 / 歯科医師 / 医学博士
2006年に石原総合歯科医院を開院。「標準予防策」の概念を実施した歯科医院は、当時県内初だった。歯科医療従事者向けの感染対策の講演など、啓蒙活動を行うほか、佐藤とともに書籍を上梓し、歯科医療業界の感染制御についてオピニオンリーダー的な役割を果たしている。専門分野は口腔外科・インプラント。
http://www.ishiharashika.jp/
山根 優一(写真右)
Yuichi YAMANE
1991年千葉県生まれ。株式会社リクルートメディカルキャリア、PwCコンサルティング合同会社を経て、2021年に株式会社名優に入社。中央材料室向けプロダクトブランド「SALWAY」の立ち上げなどを担当。2022年4月より社長室 室長。2024年10月より代表取締役。再生処理(洗浄・滅菌)に関する啓蒙活動を行っている。
https://meilleur.co.jp/salway/

沼田学(撮影)
Manabu NUMATA
北海道出身。プロの野次馬・どこでも出没カメラマン。生来の巻き込まれ体質を活かし、どアンダーグラウンドな物事をポップに探究・撮影しつつ、雑誌、広告などでお仕事中。築地市場の濃い面々を取材した写真集『築地魚河岸ブルース』刊行→https://goo.gl/oH3q7N
ライフワークは餅つき。搗くのが好きすぎて出張餅つきユニット『もちはもちや』はじめました。お祝い事や賑やかしに是非どうぞ! https://bit.ly/352g2oF









