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2022.03.31

07 デコトラ業界を支える会社【トラックアート歌麿】

今井夕華

編集者にして無類の“バックヤードウォッチャー”である今井夕華が、さまざまな施設、企業、お店の“裏側”に潜入して、その現場ならではの道具やレイアウト、独自のルールといったバックヤードの知恵をマニアックに紹介する連載企画。

表舞台編

こんにちは。編集者でバックヤードウォッチャーの今井夕華です。今回は、私の地元、群馬県に取材に行ってきました! お邪魔したのは、伊勢崎市にあるデコトラのパーツ販売やカスタムを手がける「トラックアート歌麿」と、前橋市にある、詩人・萩原朔太郎にまつわる文学館「前橋文学館」。方向性があまりにも違う、濃厚なバックヤード2本立てでお送りしていきたいと思います!

今月ご紹介するのは、トラックアート歌麿。ペイント塗装や電飾で装飾したトラック「デコトラ」のパーツ製造販売や、カスタムを手がける会社です。


デコトラって、たまーに道で見かけると、一瞬で血が沸き立つというか。「キラカード当たった!」みたいな感じですごい嬉しいんですよね。かっこよくて、ピカピカしていて、ゴージャスで、キッチュで、ポエミーで、遊び心があったりして……。日本文化の中でもかなり大好きな存在です。

実は、海水の塩害や、融雪剤の影響で車体が錆びてしまうことを防ぐ、という実用面にルーツがあるともいわれるデコトラ。1975年から1979年にかけて製作された映画『トラック野郎』シリーズは、菅原文太、愛川欽也らと共にかっこいいトラックが多数出演。デコトラブームを巻き起こすほどの大人気になりました。


トラックアート歌麿は、そんな『トラック野郎』シリーズで、愛川欽也演じるヤモメのジョナサンが乗っていた「ジョナサン号」を復刻させたことでも有名なトラックショップ。デコトラ雑誌を見れば毎回広告が載っているので、デコトラ好きなら一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

舞台裏編

案内人は、カルチャーボーイ大西さん

今回はトラックアート歌麿の専務、大西さん(写真右)にご案内いただき、伊勢崎にある店舗と、事務所、倉庫、工場も見せていただきました。写真左は筆者です。


これがジョナサン号。これぞ古き良きデコトラという感じでかっこいいですよね! 大西さんは現社長のご子息で、幼少期からデコトラに囲まれて育ったというサラブレッド。周りにヤンチャな大人が多かったため、逆にグレなかったというツワモノです。勝手なイメージですが、デコトラということで、ちょっとヤンチャな方が出てくるのかなあと想像していた私。都築響一さんの『Neverland Diner 二度と行けないあの店で』を読んでいたり、桑沢デザイン研究所を出ていたりするカルチャーボーイということがわかり、一気に親近感が湧いてきました。

マネキンがいる事務所スペース

そんな大西さんにご案内いただき、まず観察するのは、トラックアート歌麿の事務所スペースです。店舗の上にあって、今は開発途中の製品や置き場がなくなったアイテムが集まっているそう。以前は会議などで使っていたといいます。ちょっとバブリーな雰囲気。


完全にマネキンが店舗を見下ろしています。聞けば制服は、もう無くなってしまった観光バスの会社からもらってきたもので、マネキンもどこかからもらってきたものだとか。腰に手を当てて、さりげなく見ているのがなんか良いですよね。


こちらは事務所の奥にあるディスプレイスペース。『トラック野郎』シリーズのプラモデルや、ラッパの形の装飾パーツ「ホーン」などがぎっしり並べられています。上に掲げられている看板は、取引先の台湾の会社が開店祝いに送ってくれたもの。右の黒豹が乗っているタイヤは、大西さんのお父さまがカーレーサーをやっていた時代に実際に使っていたものだとか。この写真だけを見ると、若干いかつそうに見えるのですが、周りや足元には段ボールがたくさん置いてあったりして、全然いかつくありませんでした。

あなたは「スピードショップ死喰魔」を知っているか

続いて、店舗の隣にある工場棟に案内してもらいました。THE町工場という雰囲気です。ここでトラックパーツの取り付けや、金属を使った商品の製作をおこなっています。現在、大掃除期間中で、誰も使わず長年放置してあったものを選り分けているところなのだとか。


トラックアート歌麿の前身である「スピードショップ死喰魔(シグマ)」のステッカーを発見しました。不良というか、もはやヴィジュアル系バンドのような、すごい字面です! これは憧れるし、貼りたくなっちゃう気持ちわかるなあ。


ちなみに、ステッカーって貼るときすごい緊張しますよね。貼り方にその人のセンスが出ちゃうし、1枚しかないから失敗できないし。この工具箱は、そういう意味ではかなりの上級者ですよね。こんなに斜めに貼るなんて。なかなかできないですよ。かっこいいなあ!

こちらは手づくりの立ち入り禁止看板。


デコトラの世界ではお馴染み、ウロコ柄のステンレスで出来ています。何かを作ったときの端材でしょうか。裏にはなぜか、自販機についていたPOPと思しき「BOSS」のCMのタモリさんとジョーンズさんの顔が貼られていました。あるものを組み合わせてなんでも作っちゃおう!という職人さん魂、大好きです。

工場にずーっと置いてあるもの


ビス系は箱や引き出しにまとめて収納しています。スプレーには勘流亭でラベリングが。大西さんいわく「ずーっと置いてあるけど、誰が置いたのか、誰がどれくらいの頻度で使っているのか、なんなら使い方も不明」というものが多々あるそう。どうしても複数人で同じ作業場を使っていると、そういうことって起こりますよね。歴史の長い場所ならなおさら、片付けようにも「いつか使うときが来るかも」と思って片付けられない、ということは往々にしてあることです。


現在は3名の職人さんがいらっしゃるそうで、作業台は1人につき、1台。それぞれお気に入りの配置なんだろうな。30年ほど働いている安田さんという職人さんは「細いと力が入りづらいから」ということで、テープを巻きまくったハンマーを使っています。うーん、めちゃくちゃ強そう!


こちらは「バンパーを前に出して、飛び出た分の上を塞ぐための型」。トラックを運転しない人にとってはどういうことか全然分からないと思いますが「キャブを前に落とすので、それに当たらないギリギリを狙って型をつくっている」そう。車種や積載量ごとに、ちょっとずつ形が違います。


ジョナサン号に大興奮

日曜日になるとお店の前の駐車場に出しているジョナサン号ですが、普段は工場の中に置いてあります。せっかくならということで、大西さんが電飾を付けてくれました。かっこよすぎですね。富士山と「日本銀行御用達」のアンドン部分を切り取って、家の間接照明にしたいです。もしくは「やもめのジョナサン」の卓上ライト。裏とか横にスイッチがあって、カチッとつけるとあなたのお部屋も素敵なデコトラ空間に! デコトラ好きはもちろん、運転免許のない私のような人間にも楽しめますし、需要あると思うんですけど。どなたか商品化してくれないでしょうか……。


なんとまあ、運転席にも乗せていただきました。大興奮。乗って帰りたいー! ちなみに私だけじゃなく、担当編集の五十嵐さんと、カメラマンの沼田さんもルンルンで試乗しています(笑)。


ペイント部分も近くで観察。よく見ると手描きの筆致が分かります。黄色い部分には、マスキングした跡も見えて、美大の受験を思い出しました。


デコトラ業界を支える倉庫

続いてお邪魔したのは倉庫棟です。トラックアート歌麿は小売業の屋号だそうで、ここには「株式会社ビッグウエスト」として製造販売している商品の在庫が置いてあります。大西さんだから、ビッグウエスト。納得のナイスネーミングです


茶色い段ボールの中に、ブルーのラックが美しい差し色になっています。

こちらのバンパーは、台湾で製造したものなのですが、箱には何ともいえないふにゃふにゃ書体が。スタンプを使っているのか、文字によって太さも違えば、スーパーの「ス」や、バンパーの「パ」など、パーツごとに違うスタンプを組み合わせてる?!というものまで。同じ商品でも少しずつ違っていて、台湾の人が頑張ってくれたのかなあと顔がニヤけます。


こちらは「オバQバンパー」。「オバケのQ太郎」の口の形に似ているそう。こっちもいい文字ですねえ。

ちなみにトラック業界には「象牙ホース」なるものもあり、まさかマジモンの象牙?!と思いきや、象の牙のような形状でトラックのお尻部分に取り付ける、水抜き用のゴムホースのことでした。


ステッカーや、『トラック野郎』シリーズのDVDは衣装ケースに収納してあります。やっぱり小物類の収納は衣装ケースが便利ですよね。ケースサイズが統一してあって、すっきりとした印象です。ガムテープに油性ペンでラベリングしてあるものもあれば、直接油性ペンで書いてあるものも。「突撃一番星」「一番星北へ帰る」「御意見無用」「日の丸 中」「護国尊皇」など、なかなか他では見かけない字面が並んでいます。


今回お邪魔してみて、トラックアート歌麿のバックヤードは、かなり硬派な場所だと思いました。勝手にヤンチャな雰囲気を想像していたけど、全然そんなことなくて。ついつい派手なデコトラの「デコ」の部分に目が行きがちですが、大西さんのお父さまはカーレーサー出身だったり、ちゃんとトラックパーツを製造して、輸出入していたり、本当は「トラ」の要素が強い会社なんですよね。渋くて、職人っぽくて、かっこいい、素敵なバックヤードでした。

大西さん、トラックアート歌麿のみなさん、お邪魔しました!

 


大西裕也
Yuya OHNISHI

1983年生まれ。トラックアート歌麿二代目。鎌倉のNPO法人ルートカルチャーに参加。舞台衣装からデコトラまで出会いとご縁で多岐に活動。最近は在来種に惹かれて畑をやったり、桃の種でボタンを作ったり。いつでも色々本気!「デコトラが数百台集まるイベントは圧巻!一生に一度は見ておくべきですよ!」

 


沼田学(撮影)
Manabu NUMATA

北海道出身。プロの野次馬・どこでも出没カメラマン。生来の巻き込まれ体質を活かし、どアンダーグラウンドな物事をポップに探究・撮影しつつ、雑誌、広告などでお仕事中。築地市場の濃い面々を取材した写真集『築地魚河岸ブルース』刊行→https://goo.gl/oH3q7N
ライフワークは餅つき。搗くのが好きすぎて出張餅つきユニット『もちはもちや』はじめました。お祝い事や賑やかしに是非どうぞ! https://bit.ly/352g2oF

今井夕華

Yuka IMAI
フリーランスの編集者/バックヤードウォッチャー。1993年群馬県生まれ。多摩美術大学卒業。小学校の頃から社会科見学が好きで、大学の卒業制作では多数の染織工場を取材。求人サイト「日本仕事百貨」を経て2020年フリーランスに。人間味あふれるバックヤードと、何かが大好きでたまらない人が大好きです。

https://imaiyuka.net/