編集者にして無類の“バックヤードウォッチャー”である今井夕華が、さまざまな施設、企業、お店の“裏側”に潜入して、その現場ならではの道具やレイアウト、独自のルールといったバックヤードの知恵をマニアックに紹介する連載企画。
表舞台編
こんにちは。編集者でバックヤードウォッチャーの今井夕華です。今回お邪魔したのは、1783年に創業してから239年もの長きにわたって、紙の総合卸商社をやっている中庄株式会社。印刷用紙や、書籍用紙をはじめ、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、キッチンペーパーなどの「家庭紙」を取り扱っている会社です。
簡単にいうと、製紙工場などでつくられた紙製品がここに運ばれてきて、ここから各地のスーパーやドラッグストア、ディスカウントストアなどに流通していく、という仕組み! 衛生用品が集まる巨大ターミナルといった感じです。ラインナップをパッと見るだけでも、よく知っている商品がたくさん。関東にお住まいの方であれば、お世話になっている可能性がかなーり高いと思います。
今回は、写真左から家庭紙部の鈴木孝明さんと、SNSなどを担当しているソリューションデザイン部の刑部(ぎょうぶ)渉さん、筆者を挟んで、草加物流センターセンター長の松本克範さんにご案内いただきました。
舞台裏編
大量のトイレットペーパーがお出迎え
取材当日、埼玉県にある草加物流センターにお邪魔します。駅からタクシーで向かうと、さっそくトイレットペーパーたちがお出迎え。大量に積んであります。
すぐ横では、製紙工場からやってきた紙製品の荷下ろしをしていました。パレットに載った状態でラップされている製品もあれば、このように運転手さんが手で積み替える製品も。メーカーによっては、パレットにうまく入るように、規格が3つくらいに決まっているそうです。
その業務のためだけのアイテム
まずは、事務所の中から観察していきます。倉庫の脇の細い階段を上がった先にあるのですが、こういう場所の、カンカン音が鳴る細い階段、「バックヤードですけど何か」って感じで好きなんですよね。
ここでは、受注業務を担当。各地のスーパーやドラッグストア、ディスカウントストアなどからFAXやオンライン経由で入ってきた注文をまとめて、倉庫からピックアップするための指示を出しています。
中央の机と机の間には、プラスチック段ボール、通称プラダンが渡されていて、ハンコやテープなど、「けっこうこの部屋のみんなが使うんだろうなー」という重要アイテムがまとめて配置されています。宙に浮くプラダンの島。このボリュームのものを載せるにはプラダンではちょっと心許ないし、机と机の間の空間は意外と広くて、RPGゲームでここから下に落ちると終わる、みたいな緊迫感があります。ニョロニョロのクリップは、ガシャーンってならないために見張ってくれてる守護神なのでしょうか。左のテープカッターが重りになっているんだろうけど、あれを動かしたら危険な気がするんだよな。
ちなみにハンコは、会社名や住所が入ったものから、「確認済み」「処理済み」「FAX済み」「納期返信ください」といったものなど。ハンコは業種によって差が出るので興味深い観察ポイントです。私は高校生のとき、ケーキ屋さんでバイトしていたのですが、賞味期限の日付が印字されるハンドラベラーをガシャンガシャンやるのがすごく好きでした。
シャープペンシルの替芯の空き箱と、ホッチキス針の空き箱に収納されていたのはこちら。萌! オリジナルの文言の紙〜(ドラえもんの声のイメージで)! こういう「その業務のためだけのアイテム」って、なんだか無性にときめきます。
A4のコピー用紙に面付けして切り出すんだろうなあ。どれくらいのペースで、何枚くらいいっぺんにつくるんだろう。輪ゴムで括ってあるのもいいな。センター長の松本さんに「1枚だけで良いのでいただけませんか」とお願いしたら「え、良いですけど、これが欲しいの?」と、ちゃんと困惑させてしまいました。本当はハンコ全部押してみたいし、伝票も1種類ずつ、この紙も1枚ずつ全種類欲しい。コンプリートしたい。しかし私は善良なバックヤードウォッチャーなので、1枚だけで我慢です。ふう。(いただいた紙は部屋の壁に飾りました)
事務所の奥には神様たちがいますよ! なんとスタッフのお父さまが自作したそう。お上手。禅寺「陽岳寺」を見学したときにも、檀家さんが自作した不動明王像があったことを思い出しました。
伝票はこんなプリンターで、ベローっとなったまま印字されます。見たことなかったなあ。奥には「伝票を1つずつに切るだけの機械」もあって、なるほど、分業制なんですね。
続いては、配送業務を担当している「現場事務所」というお部屋にやってきました。どの製品をどのトラックに積むか、どのコースでどこに配送するか、といったことを、なるべく効率よくできるように考えて指示を出している場所です。L字に配置された机がコックピット的で仕事しやすそう。磁石で書類を貼り付けていて、キャビネットの使いこなし力も高めです。画面には、おなじみの量販店の名前がたくさん。私、絶対中庄さんの運んでくれたトイレットペーパー使ってるじゃん!
現場事務所のゴミ箱には「FIRE 挽きたて微糖」の空き缶が盛りだくさん。働く男たちのゴミ箱って感じで良いですね。きっと「〜が終わったら飲む」とか「朝来たときに飲み始めて戻ってきたときに捨てる」とか、ルーティンがあるんだろうなあ。ちなみに若手のドライバーさんや、ベテランドライバーさんも多く、優秀なドライバーさんには月間と年間で「最優秀ドライバーMVP」の称号が授与されるといいます。
見渡す限りトイレットペーパー
続いてやってきたのは、トイレットペーパーだらけの倉庫スペース。見渡す限り、トイレットペーパー。かなりの高さまで大量に積み上げられています。軽いからけっこう積めるんですね。地震があっても意外と荷崩れしないんだとか。香り付きの銘柄の近くに行くと、ふわーっと良いにおいがします。
お店で見かけるようなおなじみの商品はもちろん、普段はなかなか見かけない業務用のもの、さらにはプライベートブランドの商品も数多く取り揃えています。
ピックアップはきめ細やかに
最後にやってきたのは、細かい商品をピックアップする「ピッキング場」。先ほどの倉庫は、トイレットペーパーやティッシュ、キッチンペーパーなどの、いわゆる「家庭紙」がメインでしたが、ここはポケットティッシュや、ウェットティッシュ、マスク、紙おむつに生理用品など、「衛生紙」と呼ばれる商品を取り扱っています。段ボールの蓋は、オレンジ色のクリップで固定されているので、通路にはみ出さず安全!
ピックアップはこんな感じです。え、まさかの1店舗ずつ。細やかすぎる! 見学する前は「卸商社って、何をやってるんだろう」と思っていたけど、これだけたくさんの製品在庫を抱えて、これだけ繊細な作業をしていたとは。工場でも店舗でもない、卸だからこそできる、すごい仕事です。
先入観を0にできる秘密道具
横にあったのはピックアップするためのオリジナルのカート。さまざまな工夫が施されていて、DIY精神あふれる素晴らしい仕上がりです! まず中央に見えますのは、小型扇風機。暑い時期の倉庫作業では欠かせませんよね。そして左下にはちょっとしたゴミを入れられるビニール袋。すぐ隣にはピックアップした商品を小分けにできるビニール袋もあります。
右上の洗濯バサミは、鉛筆ホルダーになっているときた。そして極め付けは、扇風機の左下、バインダー左側にあしらわれた、下敷きのような黒いプラスチックシート。なんとこちら、貴方の「先入観を0にできる」シートなんです!
というと一気に怪しい感じが出てしまいましたが、製品をピックアップする際に、伝票の製品名が見えていると、先入観で違う製品を取ってしまう可能性があるため、そこだけピンポイントで目隠しするシートなのだそう。管理番号で全て確認しているといいます。特に衛生用品だと、サイズ違いとか、仕様違いが大きな差になってくるだろうから、これは良い工夫! ちなみに「先入観を0にできるシート」の上部分は、何回も何回もテープで補修されていて、ガッチガチのベッタベタで最高です。
今回お邪魔してみて、中庄株式会社のバックヤードは、大量の衛生用品が集まる巨大ターミナルのような場所だと思いました。たくさんの製品が集まるからこそ、銘柄の違いや、サイズ、仕様の違いに気を配りながら、時に先入観を消して、適切な場所に適量を配送する。私たちの手元に届くまでに、トイレットペーパーたちはこんな場所を旅をしていたんだ、と驚きました。
鈴木さん、刑部さん、松本さん、中庄株式会社のみなさん、お邪魔しました!
鈴木 孝明(写真左)
Takaaki SUZUKI
2002年、新卒で中庄株式会社へ入社。家庭紙事業部へ配属され営業を経験。
その後、商品課責任者を兼務し商品軸から部の内部構造の改善と取扱い商品全般の基礎を構築。2020年11月に家庭紙部の部長となり、現在も奮闘中。
趣味:ゴルフ 好きな食べ物:ハンバーグ
松本 克範(写真右)
Yoshinori MATSUMOTO
2004年、知人の縁もあり中途で中庄株式会社へ入社。家庭紙事業部へ配属。
持ち前のコミュニケーション能力と前職での営業経験を活かし物流センターに新たな風を吹き込む。2019年11月センター長となり、現在も明るく楽しくをモットーに活動中。
趣味:歩くこと 好きな食べ物:おにぎり ※お酒は飲めません。
刑部 渉(写真中央)
Wataru GYOBU
2011年中庄株式会社へ入社。家庭紙事業部へ配属。2019年に「中庄の未来をつくる部」を開設し、中庄自らできることをみつけるべくSNSなどの情報発信を開始。2021年からアトリエヤマダとタッグを組み「日本橋の地に新たな創造拠点となる発信地をつくる!」を目指し、「紙の遊園地プロジェクト」を開始している。
沼田学(撮影)
Manabu NUMATA
北海道出身。プロの野次馬・どこでも出没カメラマン。生来の巻き込まれ体質を活かし、どアンダーグラウンドな物事をポップに探究・撮影しつつ、雑誌、広告などでお仕事中。築地市場の濃い面々を取材した写真集『築地魚河岸ブルース』刊行→https://goo.gl/oH3q7N
ライフワークは餅つき。搗くのが好きすぎて出張餅つきユニット『もちはもちや』はじめました。お祝い事や賑やかしに是非どうぞ! https://bit.ly/352g2oF