今井夕華のバックヤード探訪

01 怪獣大好きボーイズの秘密基地【特撮研究所】

今井夕華

編集者にして無類の“バックヤードウォッチャー”である今井夕華が、さまざまな施設、企業、お店の“裏側”に潜入して、その現場ならではの道具やレイアウト、独自のルールといったバックヤードの知恵をマニアックに紹介する連載企画。

はじめまして、編集者の今井夕華です。私は小学校のときから、立ち入り禁止の場所に堂々と入れてもらえる社会科見学が大好きでした。大学では工場やアトリエを多数取材、社会人になってからは、編集者としてさまざまなバックヤードを取材しています。

バックヤードに対する目線を先にお伝えしておくと、どのバックヤードも最高!ということ。好みは多少ありますが、優劣は決してなく、平等に観察し愛でています。研究家でも評論家でもなく、「バックヤードウォッチャー」といったところでしょうか。独自ルールが発達した休憩室や、放置された私物など、キラキラした世界と表裏一体の、人間味あふれる舞台裏が、私は大好きです。

表舞台編


佐世保市博物館島瀬美術センター 特撮映画美術監督井上泰幸展

記念すべき初回は、特撮美術監督の三池敏夫さんに「株式会社特撮研究所」のバックヤードをご案内いただきました。三池さんは、小さい頃から大好きだった怪獣映画を仕事にした人で、簡単にいうとゴジラやガメラが破壊する「街並み」や怪獣を攻撃する飛行機などをつくっています。

こちらのメイキングとCM本編は、特撮現場の舞台裏について焦点を当てたもの。非常にかっこいい映像で、こんなに大勢の大人たちが頑張ってつくり上げていたんだ……!とグッときます。

0:06〜ミニチュアの数がえぐいです。1:15〜三池さんが登場!

0:48くらいからの爆撃シーンは必見です。

舞台裏編

いざ・・・バックヤードへ!

秘密の研究所に潜入!

取材当日。教えてもらった住所をもとに、特撮研究所の作業場兼倉庫を訪ねました。埼玉県川口市にあり、詳細な場所は秘密。看板も目印もなく、外見だけではいわゆる町工場といった雰囲気です。こんな閑静な住宅地でゴジラやガメラがあれこれされていたとは! 博士の秘密の研究所を覗いちゃった、みたいなゾクゾク感があります。

まずは2Fの事務所スペースからお邪魔します。

資料保管は作品ごとに

資料は残しておく派の三池さん。本棚には過去に手がけた作品の図面や、参考写真などが隙間なくぎっしり! ものすごい量です。作品ごとに紙袋に入れられ、袋はヨドバシカメラ、東急ハンズ、三省堂書店、ブックファーストなど。中野ブロードウェイにあるオーディオ機器のお店、フジヤエービックのものも発見しました。

「シン・ゴジラ」や「いだてん」といった最近の作品の資料は、ガチャンと蓋が閉められる「バックルコンテナ」に収納されていて、色やメーカーはさまざま。白ガムテープに油性ペンでラベリングされています。自分が観た作品名を見つけてはニヤニヤしちゃいます。

高層ビルが増え、巨大化する怪獣

ファイルの中から、冒頭の写真に映っている1956年頃の「岩田屋」の設計図を出してくれました。全部手描きで、めちゃめちゃ細かい!1/20スケールのミニチュアなので、高さはなんと160cm。ほぼ身長!もはやミニではない規模感です。

昭和の特撮では1/25がメインでしたが、平成ゴジラシリーズではその半分の1/50に。というのも、実際の街並みに高層ビルが増えたせいで、1/25サイズでつくってもゴジラが小さく見えてしまう。そこで、ゴジラの設定を大きくして、ミニチュアを小さいものに変えたのだとか! 時代に合わせて製作の現場も変化していったんですね。勉強になるなあ。

こちらはレーザーカッターのそばにあったゴミ入れ。くり抜かれた窓のパーツが大量に捨てられています。茶色い方がMDFという木のボードで、白い方が少し厚い紙。縁が焦げていてクッキーみたい。

ちなみに、ゴミはバックヤードごとにかなり特色が出る場所なので、注目ポイントの一つです。ゴミの価値観って、人によって結構違いますよね。

倉庫スペースはコンテナがいっぱい

続いて1Fの倉庫スペースに来ました。ミニチュアのパーツが「工事現場」「テトラポッド」「自転車」「南国風造葉」など品目ごとに収納されています。

コンテナは、資料保管と同じくバックルタイプ+白ガムテープラベルで、こちらは便利なキャスター付き! まとめ買いをしたのか、量販店でよく見かける収納ケース「Fits」でお馴染みの、天馬株式会社製品「インロック」シリーズが多めです。

家やお城のミニチュア保管はこんな感じ。よく見ると壁は3面しかなく、夜のシーンのために電球を中に仕込めるようになっています。

怪獣に踏み潰されたり、爆発シーンで大破しなければ、基本的には修理、保管して使い回しているそう。映像業界は使い捨てが多いと思っていたので意外でしたが、プラモデルをこれだけの数つくると思えば、そりゃ使い回したいよな、と納得。むしろ頑張ってつくったから壊されたくない!と思ってしまいますが、大好きな怪獣に壊してもらうためにつくっているのが特撮畑の人たちなのです。

スケールや時代設定が合えば、既製品のプラモデルやミニカーを使うことも多く、ミリタリー系の模型はタミヤ製品の採用率が高め!日本製のものは精度が高く、タミヤは特にディテールが素晴らしいとのことです。

ミニカーは、1/24スケールのものが多く出回っているので、1/25で街をつくるときにはサイズがすこーし違うけど、よく使っています。じゃあ街も1/24でつくればいいのに、とか思うけど、そういうことじゃないんだろうな。

時代を超えて愛される名脇役

こちらは大河ドラマ「いだてん」でも使われたお菓子屋さんのミニチュア。実はCGと合わせて特撮シーンが多用されたドラマで、三池さんも制作に携わっていた一人です。

お菓子屋さん自体ももちろんすごいのですが、三池さんのお気に入りポイントは、なんといっても電柱!細部までかなりリアルにつくり込まれています。

三池さんが特撮業界に入った80年代には、粗雑な電柱のミニチュアしかなく不満だったため、平成ガメラシリーズを手がけた際に、リアルなものにつくり代えたそう。木材のボディに、金属製の腕金を付けていて、結構丈夫に出来ています。平成ガメラということで、1995年頃から大切に大切に使い続けているシロモノです。

看板や金属バンドはもちろん、足場釘の再現度たるや!足場釘は、銅の釘をトンカチで叩いて六角形にしているそうで,なんかもうすごすぎるんですが。いってしまえば映像に映らない可能性の方が高いのに、ここまでこだわるという職人魂には本当に頭が上がりません。「当時そんなところにこだわる人は他にいなかったけど、僕ら世代の特撮好きは、みんな電柱が好きだからね」と笑う三池さん。もう、好きでやってる人は最強なんですよ。神は細部に宿る、ってこういうことなんでしょうね。

収納するときは逆さにして、お手製の木箱にイン。ワイングラスみたいで可愛いです。

破壊シーンは石膏におまかせ!

今度は石膏で出来た屋根瓦のパーツを見せてくれました。綺麗に壊したい建物は、石膏でつくるのがおすすめです。ただ、石膏をそのまま使うと、壊れたときの破片や断面が真っ白になってしまうので、墨汁を混ぜてから固めます。たっぷり入れても写真くらいの色にしかならないのですが、真っ白よりはマシなんだとか。今後、特撮作品で爆破シーンがあったら、破片が何色になっているか、一時停止で観てみましょう。

逆に、壊れてほしくない「いだてん」ミニチュアのような屋根瓦は、熱や反りに強いゴム系の樹脂でつくっています。

町工場みたいな作業スペース

フロア内を移動して、最後にやってきたのは作業スペースです。ここは、がっつり町工場という雰囲気。もともと鉄鋼関係の工場だった場所なので、天井が高く開放的です。写真左には、穴あけ、切断、研磨、金属加工など用途に応じた機材が揃っています。ミニチュア製作をお願いしていた会社から譲り受けた機材もちらほら。

作業台はこんな感じ。カッター作業で大活躍するステンレス定規や、水平器、ノコギリは釘にひっかけて見える状態で収納しています。熱帯魚などをすくう網もありますが、スパッタリング用でしょうか。プラスチック製の定規は手前のお手製ケースにさしてあります。

右手下にあるのは、工事現場で鉄筋を留める際に使われる細い針金「結束線」の束で、三池さんいわく「何にでも使える」とのこと。美大生にとってのカッターやマステ、カメラマンさんにとってのパーマセルテープなど「何にでも使えるもの」ってありますよねえ。

特撮研究所のバックヤードは、使い込まれた電柱のミニチュアと、プラケースが特に印象的な、怪獣大好きボーイズの秘密基地といった雰囲気でした。三池さん、特撮研究所のみなさん、お邪魔しました!

三池敏夫
Toshio MIIKE
1961年熊本生まれ。九州大学工学部機械工学科卒業後に上京し、東映作品を主に手掛ける特撮研究所に入社、特撮監督矢島信男に師事する。特撮美術の大澤哲三と井上泰幸に学び、1989年以降はフリーとして、ゴジラ、ガメラ、ウルトラマンなど各社の特撮美術で腕を磨く。2007年から再び特撮研究所に戻り「のぼうの城」「ウルトラマンサーガ」「シン・ゴジラ」「シン・エヴァンゲリオン」などに参加。ATAC(アニメ特撮アーカイブ機構)に所属し、近年は特撮を使ったワークショップや展示にも積極的に関わる。

特撮ワークショップ“綿で雲をつくってみよう
https://www.youtube.com/watch?v=pQtXYP3YcdE
円谷英二ミュージアム 特撮の技術 第1回「爆発・爆炎・大噴火」
https://www.youtube.com/watch?v=9wqzLPfYx7s&t=51s
特撮研究所 大噴火
https://www.youtube.com/watch?v=ASnUFJtfdFU&t=18s
親線で、おもちゃの飛行機を飛ばす!
https://www.youtube.com/watch?v=d2rZ4WhjSxA
特撮研究所の中
https://www.youtube.com/channel/UC75yuEZ-htc4AIzKFib59nQ

今井夕華

今井夕華

Yuka IMAI
フリーランスの編集者/バックヤードウォッチャー。1993年群馬県生まれ。多摩美術大学卒業。小学校の頃から社会科見学が好きで、大学の卒業制作では多数の染織工場を取材。求人サイト「日本仕事百貨」を経て2020年フリーランスに。人間味あふれるバックヤードと、何かが大好きでたまらない人が大好きです。