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読書の秋

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2021.12.20

04 お坊さんファミリーの生活感【陽岳寺】

今井夕華

編集者にして無類の“バックヤードウォッチャー”である今井夕華が、さまざまな施設、企業、お店の“裏側”に潜入して、その現場ならではの道具やレイアウト、独自のルールといったバックヤードの知恵をマニアックに紹介する連載企画。

表舞台編

こんにちは。編集者でバックヤードウォッチャーの今井夕華です。今回お邪魔したのは、東京・門前仲町にある臨済宗妙心寺派の禅寺「陽岳寺」。特撮、図書室、プリント工場ときて、第4回目はお寺です! お寺のバックヤードってどんな感じなんだろう〜。表側も頻繁に見るわけではないですが、たまに行くとゴージャス感がすごいですよね。無印良品のようなシンプルライフとは別世界の、かっこいい装飾に心躍ります。

陽岳寺の基本情報をお伝えしておくと、1637年という遥か昔に創建された、由緒正しいお寺です。2021年から計算しても、まさかの384年。歴史ありすぎ! 初心者向けの座禅教室や、ヨガ教室、ボードゲーム会なども定期的に企画されていて、歴史もありながら親しみやすさもあるんです。

そんな陽岳寺を案内してくれたのは、副住職の向井真人さん。お寺にまつわるボードゲームを自作していて『タモリ倶楽部』にも出演したことがある、非常にユニークなお坊さんです。

舞台裏編

小さい鐘は意外と響く

取材当日。門前仲町の駅から歩いて5分ほど、大通り沿いに陽岳寺はあります。都会のお寺という感じで、どことなくコンパクトなつくり。門をくぐり入り口に入ると、呼び鈴がわりの鐘がありました。鐘かあ。ピンポンを押すのとは訳が違って、心理的なハードルが若干ありますが、勇気を出して鳴らします。……想像以上に音が響いてびっくり! 「ちゃんと鳴らしてくれて有難うございます」と笑いながら迎えてくれた向井さんに、まずは寺務所(じむしょ)を案内してもらいます。

光の射す台所

お寺本体と廊下で繋がっている寺務所は、いわば向井さんファミリーのお家エリア。バックヤード=家という、初めてのパターンです! お邪魔したときには、ちょうど会報の発送準備をしていました。めちゃめちゃ台所で最高。淡々と作業をこなすお二人に射す、窓からの自然光が美しいですね。こういった生活感と仕事感のコントラストが私は大好物です。変な例えですが、ノスタルジックで温かくて、ちょっとシュールで、なんだか夢で見た風景みたいだと思いました。

ディズニー缶で、見せる収納

こちらは冷蔵庫の脇にあったハサミ入れ。ハサミをよく使うんでしょうか。少なくとも7個くらいはあります。カッターや、レターオープナー的なものも一緒になっているので「切る系コーナー」なのかな。ディズニーのお菓子の缶(しかもちょっと和柄)に入れてあって、ナイスな実家感です。誰かからもらったのか、自分たちが行ったときのお土産なのか。柄付きの缶ってなんか取っておきたくなりますよね。見せる収納なので、必要なときにすぐに使えます。

リビングスペースに移動すると、茶封筒を発見。よく見ると「断髪式告知在中」と書いてあります! 断髪式ってこうやって告知されるんだ。全然知らない世界。相撲部屋が多い地域のお寺だからこその郵便物って感じですね。中を見せてもらったら、細かく折られた番付表と、和紙のコピー用紙に刷られた断髪式の告知文が入っていました。やっぱりこういうのって和紙なんだなあ。

コックピットのような書斎スペース

続いてやってきたのは、向井さんと向井さんのお父さんである住職が使う書斎スペース。掘りごたつの机を中心に、必要なものが全て手の届く範囲に配置されている、まるでコックピットのようなお部屋です!

パソコンやプリンターをはじめ、たくさんの参考書籍、法衣、ギターも置いてあります。ものは多いけど、何がどこにあるのかきちんと把握していそうなレイアウト。通り道をきちんと空けてあるので、行き来しやすくなっています。

充電器や電話機は電源タップ周辺にまとめて。配線が絡み合っていてかっこいい仕上がりです。

斬新なメガネのディスプレイ

本のコーナーには、まさかの方法でメガネが掛けられていました(笑)。本がメガネをしているみたい。両サイドからのいい感じの圧で支えられています。ちなみにその下には、ガラス戸を活用して6本もメガネが掛けられています! ハサミ同様、ここが「メガネコーナー」なんでしょうね。上のメガネはやっぱりディスプレイ用なのかなあ。

業務用のもの、LOVE

会報の封入作業で必須になってくる糊は、大量購入してストックしてあります。右の詰め替え用は、すごいデカくてなんか面白い。業務用のものって、業務用だからこそのバグってる感というか、可笑しさがありますよね。下に入ってるのりの頭部なんて、弾丸みたいになっちゃってるし。高校時代、通学路に包装資材のお店があって、業務用のものをよく眺めに行ってたなあと思い出しました。

圧巻のボードゲーム部屋

2階は向井さんのボードゲーム部屋です! 箱の中にもびっしり入っていて、その数なんと500〜600種ほど。この写真だけ見ても、まさかここがお寺とは思いませんね。「お寺に来た人に何かお土産を渡したい」という思いから、ボードゲームに行きついて、リサーチのために買っていったらこうなったそう。めちゃめちゃハマってるじゃないですか!

ちなみに向井さんが自作した「檀家-DANKA-」というボードゲームは、プレイヤーが住職になって、檀家さんを増やしていくというもの。大仏を管理したり、修行をしたりと、結構リアルで楽しそうです。

修行アイテムは訪問販売でゲット

続いて1階に戻ってきて、玄関を見せてもらいました。左に掛かっているのは、網代笠(あじろがさ)と頭陀袋(ずたぶくろ)というもので、「いつでも修行に行けるよセット」です。「こういうアイテムってどこで買うんですか?」と訊いたところ、京都あたりから訪問販売の人が来て、そのときに注文しているそう。カタログとかあったら見てみたいなあ。

お線香の着火は、ワイルドスタイルが定番

玄関先には小型のカセットコンロが。なんだろう?と思ったら、お線香の着火用でした! まさかのワイルドスタイル。昔は炭と火鉢でしたが、今では他のお寺も結構カセットコンロを使っているらしく「お線香をつけてから渡すタイプのお寺」業界では定番の流れなのかもしれません。知らない世界の知らない常識、面白いですね。

こちらは大量の卒塔婆ストックです。八王子の木工所に頼んで作ってもらい、不要になった卒塔婆もそこで処理しているそう。細長いからこういう場所に立てて置いておくのがいいんでしょうね。

電気周りは上手にカムフラージュ

本堂にもお邪魔します。「バックヤード探訪」なので、普段見ないところに注目してみましょう。こちらは正面右手側にある、茶色でカムフラージュされた電気スイッチ。昭和だぜ、という感じの配線が素敵です。

音響機材は左手の布の裏に隠されていました! 全てPanasonicのもので、上からワイヤレスチューナー、ミキサー、アンプ。お経や説法は、ワイヤレスマイクを通してお堂の端にいる人までよく届く仕組みです。

お経を唱えるスペースはこんな感じ。中央にマイクが置かれています! 木魚の彫り物がかっこいいですね。器型の鳴物は「大鏧(だいけい)」「小鏧(しょうけい)」と呼ばれているそう。「お経が始まるよ」の合図や、お経の途中で鳴らします。今までこんなにじっくり見ることがなかったので、なんだか新鮮。

最後に案内してくれたのは、本堂の地下! バックヤードを超えて、アンダーグラウンドに来ちゃいました。使わなくなったものや、出番の少ない道具たちがたくさん置かれていて、檀家さんが自作したという不動明王像は、ちょっと可愛らしい顔付きです。

昔お線香をつけていたという火鉢もありました。今ではなかなかお目にかかれない代物ですが、きちんと残っているんですね!

陽岳寺のバックヤードは、向井さんファミリーの生活感あふれる温かな場所でした。向井さん、ご家族のみなさん、お邪魔しました!

向井真人 
Mahito MUKAI

1985年生まれ。江東区深川出身、在住。大学卒業後、鎌倉の円覚寺専門道場で約3年半修行。2010年に陽岳寺に戻り副住職となった後「ようがくじ不二の会」を立ち上げ坐禅会、ヨガ、ゲーム部、お茶の会などを企画開催。2015年からは「御朱印あつめ」「檀家」「WAになって語ろう」などのお寺系ボードゲームを制作。

今井夕華

Yuka IMAI
フリーランスの編集者/バックヤードウォッチャー。1993年群馬県生まれ。多摩美術大学卒業。小学校の頃から社会科見学が好きで、大学の卒業制作では多数の染織工場を取材。求人サイト「日本仕事百貨」を経て2020年フリーランスに。人間味あふれるバックヤードと、何かが大好きでたまらない人が大好きです。

https://imaiyuka.net/