newworld

newworld

Happy NeWORLD

h
2022.11.24

煙が目にしみる|玉袋筋太郎(芸人)

文:玉袋筋太郎  朗読:茂木淳一

僕をつくったあの店は、もうない。

都築響一編『Neverland Diner 二度と行けないあの店で』(2021年1月刊)は、100名の書き手が、それぞれのスタイルで“二度と行けない店”について綴った珠玉のエッセイ集です。

そんなネバダイの世界をよりディープに味わっていただくべく、「ネバダイ・オーディオブック」として、本書に収録された100話のなかから作品をセレクトして、朗読版の音声トラックを週イチで無料公開していきます。

朗読者は、女優の冨手麻妙さん、タレント・ナレーターの茂木淳一さん、朗読少女・アズマモカさん。それぞれのスタイルでネバダイ珠玉の一篇を朗読していただきます。

煙が目にしみる|玉袋筋太郎(芸人) ※冒頭文抜粋

「ほ~ら、エサの時間だよ~ぴぃ~ぴぃ~ぴぃ~って小鳥みたいに泣きな~」、5歳の息子は無邪気に小鳥の雛の真似をして「ぴぃ~ぴぃ~ぴぃ~」とさえずり、口を鳥の嘴のように尖らかせ、手を羽のように羽ばたかせ、オレの箸から与えられるユッケをついばむ。
「よ~し、よ~し、可愛い小鳥だなぁ……、美味しいか?」
「おいしい、ぴぃ~ぴぃ~」
「そうか、ならほら、またあげよう」
「ぴぃ~ぴぃ~」
 前に一緒に見た動物番組の鷹が雛に、捕らえたエサの動物の肉やら内臓を嘴でちぎって雛にエサを与える映像を、ユッケに見立てて真似るバカな親子の遊びを妻は「馬鹿な事やってんじゃないよ」と呆れていた。

 はじめてここ東高円寺の焼肉屋の「寿楽」に訪れたのは息子が3歳の頃だ。この時期のオレは仕事が右肩上がりに入るようになり、給料が上がれば生活レベルも上げていこうと躍起で、妻と息子の3人で3階建ての一軒家で暮らすようになっていた。そして近所の焼肉屋さんを探している時に、駅前の雑居ビルの2階にあったこの店に惹かれた。
 ショーケースには、ありがちな色が変わってしまっている肉のディスプレイ。銀色の楕円の皿に載っけられたカルビ、ロースの変色ぶりをみて、「この店は信用できる!」と入ってみた。どうも好きになれない無煙ロースターから始まる一連のバブリーで小洒落た焼肉屋さんでなく、コンロで焼く家族3人で経営している焼肉屋の様なスタイルのお店を好むオレにはピッタリの店だった。

NeWORLD_2 · 煙が目にしみる|玉袋筋太郎(芸人) 朗読=茂木淳一
書籍情報

Neverland Diner 二度と行けないあの店で
都築響一 編


↑書影をクリックして詳細へ

体裁:四六判変形/並製/カバー装
頁数:640頁(カラー写真頁含)
定価:3,300円+税
刊行:2021年1月22日
ISBN 978-4-910315-02-7 C0095

茂木淳一

MOGY Junwich
1972年群馬県生まれ。1993年よりライブソリューション「千葉レーダ」として歌と司会と雰囲気を展開。JRAシネマ競馬「ジャパンワールドカップ」シリーズや、今年20周年を迎えたコンテンツ「スキージャンプ・ペア」シリーズでは台詞コーディネイトを含む「実況調ナレーション」を担当。現在、スマートフォン向けゲームアプリ「ウマ娘 プリティーダービー」の実況をはじめ、ナレーション、イベント・番組MC、そして役者など、その活動は多岐にわたる。

HP