採U記

第2回 誰がUFOを呼んだのか

日下慶太

    夜の11時頃、家に帰ろうと自転車を漕いでいた。四天王寺の横の店が立ち並ぶ道路を走っていた。すべての店がシャッターを下ろし、街は寝息を立てていた。交差点で店が途切れて境内が見える。ふと気配を感じて境内の方を見ると、電柱ほどの高さから稲妻のような不思議な光が斜め上に飛んで消えていった。光を帯びた鳥が飛び立ったようだった。鳥が光るわけはない、しかも、鳥にしては速すぎる。あの光は何だろう。妙見山から私は何か変なのである。

    年が明けて間もなく私は『UFO祭り』なるイベントに出演した。ムーの三上編集長がメインゲストのイベントである。会場は大阪・宗右衛門町のロフトプラスワン ウエストというライブハウスで、UFOを呼んだと嗅ぎつけた副店長の宮武さんが私に出演を依頼してきた。 宮武さんとは知己の仲であったとはいえ、三上さんに比べれば私はまだ1回UFOを呼んだに過ぎないがよいのだろうか。

    UFO初心者の私がMCとなって、UFOマエストロたちにいろいろと質問をしながら教えてもらうという体でイベントは進んでいく。

    まずは、柴田剛監督の新作映画『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』を紹介した。「UFOを撮る」という撮影スタッフの行為自体を映画にした良質のロードムービーだ。5日間ロケをして4日間UFOが出てうち1回だけ収録に成功している。


ギ・あいうえおス −他山の石を以って己の玉を磨くべし− (trailer)

    柴田たちは映画の撮影以外でもよくUFOを見ている。「出ろと、あまり力んでちゃだめなんだ。心に強く思って、そのあと、ふとリラックスしている時によく出るんだよ。出る前には鳥が急に鳴き出したりね」と。セックスの経験者が童貞にアドバイスをしているようだった。

    もう1人の出演者は日本地球外生命体センター代表のグレゴリー・サリバン。その肩書は今まで名刺を交換したどんな肩書よりも印象的で、一体どんな人が来るんだとビクビクしていた。何か話せる共通言語はあるのだろうか。やってきたのは身長が2mほど、北九州市在住のアメリカ人男性である。日本語はペラペラ、とても明るいナイスガイで、年代も近く、すぐに打ち解けることができた。
    グレッグは日本各地でUFOとコンタクト、つまり、UFOを呼んでいる。また、本国アメリカ地球外生命体センターの「ディスクロージャー運動」についても紹介した。ディスクロージャー”disclosure”とは情報公開を意味する。隠蔽されてきた地球外生命体についての情報公開をアメリカ政府などに求めてきた。しかし、公開されることはなかったため、政府高官OBや、UFOを目撃した人など数百人にインタビューを重ねて、1本の映画にまとめた。それが『SIRIUS』という映画である。

    この映画の中で、核実験中にUFOが現れて核弾頭にレーザーをあてて核弾頭を消してしまったという元米空軍中佐の目撃談があった。その流れで、三上さんがUFOと核の関係について語った。人間が核を使用している場によくUFOは現れる。ロズウェル事件の舞台、ネバダ州のエリア51は核実験場であった。広島と長崎の原爆もエリア51から運ばれている。チェルノブイリや福島原発でUFOの目撃談が多々ある。宇宙人は核の使用を地球人に警告しているとのことだそうだ。私はUFOについての情報量が少なくただ頷くばかりであった。トークも佳境であったが私は先に抜けた。UFOを呼ぶためのライブがあるからである。

    妙見山はその場限りのジャムセッションであった。今回のために『エンバーン』というバンドを結成した。UFOを呼ぶという目的のためのバンドである。私がリーダーである。まさか、30代後半になってバンドを結成するとは思わなかった。大学の時にバンドを少ししてみたがギターのBコードがうまく弾けずに終わった。音楽はずっと3だった。音痴なのでカラオケは好きではない。しかし、音楽の資質など関係ない。これは自己表現ではない。UFOを呼ぶために演奏するのだ。


私こと、DENTZ(Vo.指揮者)を中心に、DAMA(Vo),HANN(Vo),TAM(オカリナ)BEE(Vo),JUN(Gu),ROMI(Key),MACO(Dr),IZ(Electrical Per),FUL(Noise),A IN(Noise)が円になった。

    会場は雑居ビルの2階である。UFOが来ても誰もわからない。柴田剛たちが屋上に上がり夜空の様子をカメラで捉え、それを会場のスクリーンにリアルタイムで映した。これならUFOが来たら会場でもわかる。屋上は教室の半分ほどの広さがある。高い建物は近くにはなく見晴らしはいい。ただ、街の光が明るい。しかも、スナック、キャバクラ、ホストクラブなどがひしめいている。こんな雑念の多い場所にUFOはやってくるのだろうか。

    観客の中には半信半疑の人も少なくはない。意識を整える必要がある。観客をその気にさせるための音楽。私たちの演奏はライブではない。儀式なのである。MACOのドロドロとしたドラムがゆったりとはじまる。私の指示でメンバー1人1人が音を出す。BEEが宇宙の言葉を話す、HANNが呪文を唱える、DAMAがお経を唱える、TAMがオカリナを吹く、JUNがギターを弾く、IZがリズムを叩く、ROMIが信号を送る、FULがノイズを放出する。AINが叫び声を出す。はじめはバラバラだった音が一つに溶け合い、調和し、天に通ずる。


エンバーン ライブ映像

    演奏開始から15分ほどで、柴田剛が屋上から降りてきた。何かのトラブルかとおもったら、UFOが来たということだ。スクリーンで映していたはずだったが、誰も気づかないので柴田剛が業を煮やしてこちらに降りてきたのだ。私もこんなに早くにUFOが来るとは思ってもおらず、スクリーンを見ていなかった。会場にいた観客50人ほどを急ぎ屋上に移動させた。

    演奏を中止するとUFOは来なくなってしまうため、私たちは観客がいない中で演奏を続けた。宇宙へ通じるように心を込めていた。しばらくして客がぞろぞろと戻ってきた。どうやら見えなかったようである。

    しかし、先に屋上にいた柴田剛とグレッグたちはしっかりとUFOを目撃していた。複数の目撃談をまとめると、4体がオリオン座あたりでピカピカと光り、光ったまま2秒ほど動いた光の軌道が残っていた。観客が屋上に上がってきてから消えてしまった。映像中継担当のLoft のバイトスタッフも「UFOを見たのはじめてです!ほんとにしっかりと見ました!」と興奮していた。見える人だけが見えたのではない。一般人でも見えるUFOがしっかりと来ていたのだ。

    私はまたUFOを呼べたのだ。しかも、都会の真ん中、雑念ばかりの宗右衛門町でUFOを呼べたのだ。しかし、それはグレッグが呼んでくれたのかもしれない。柴田剛と西村がロックオンされていたからかもしれない。私はまだ半信半疑のまま、イベントを終えた。

    Turn on, tune in, drop out /スイッチを入れ、波長を合わせ、脱落せよ。60年代のフラワームーブメントの合言葉だ。LSD開発者、ティモシー・リアリーの言葉である。UFOでは”Turn on, tune in, find out.”なのだ。感性の受信機にスイッチを入れ、チャンネルを合わせ、UFOを発見するのだ。グレッグや柴田たちはチャンネルを合わせている。私もチャンネルが合ったことは確かだ。あとは私一人でfind out できるのか、確認しなくてはいけない。

日下慶太

日下慶太

KEITA KUSAKA
コピーライター・写真家・コンタクティ・シーシャ屋スタッフ
1976年大阪生まれ大阪在住。自分がどこに向かっているかわかりません。著作に自伝的エッセイ『迷子のコピーライター』(イーストプレス)、写真集『隙ある風景』(私家版 )。連載 Meet Regional『隙ある風景』山陰中央新報『羅針盤』Tabistory『つれないつり』。佐治敬三賞、グッドデザイン賞、TCC最高新人賞、KYOTOGRAPHIE DELTA award ほか受賞。