採U記

第8回  UFOの撮影に成功する

日下慶太

私はUFOを撮影することにした。UFOの写真集を作ることにした。

今まで写真を撮ることは、どうも気が引けていた。その「撮って残そう」というエゴのために、UFOが消えてしまいそうな気がしていたのだ。UFOを呼ぶイベントをしていて、自分の行為でUFOを消してしまうなど以ての外である。撮ったとしても、UFOが「安定して」来ている時に限っていた。とはいえ、スマホやコンパクトカメラで撮っていたのでしっかりとは映っていなかった。

UFOの写真集を作りたい、という気持ちが芽生えた。私は写真家としても活動している。『隙ある風景』という、ストリートスナップをまとめた写真集を2019年に出版した。寝ている人、ハトにエサをやっている人、背中を掻いている人など、人間の「隙」を撮った写真を集めたものだ。写真集は国内外で評判になり。賞ももらった。ひとつやり遂げた気持ちであった。『隙ある風景』は「俗」を撮ったもの、今度は「聖」へと向かうものを撮りたかった。自分しか撮れないものは何かと行き着いた果てに「UFO」に辿り着いた。

この作家的エゴイズムに、UFOは宇宙は応えてくれるのだろうか。もうこれだけUFOを呼ぶことができたのだ。一度、トライしてもいいだろう。ダメならあきらめればいい。撮れなければ宇宙人にまだ撮影は認められていないということだ。しかし、宇宙人から役割を与えられている「撮影を認められている」という自信があった。

GWも明けた頃、仕事で高知の四万十町に行くことがあった。そのタイミングでUFO撮影を始める。四万十町で仕事を終えてから、私はそこから1時間ほどの四国カルストの天狗高原を目指した。

ここには1年半前に来た。11月であったが南国高知なのにもうすでに雪があった。標高は1400mで尾根沿いに道が走っていた。四国の背骨を走っているようだ。この道は「UFOライン」という別名があり、目撃談が多数あるそうだ。そこに『星降るビレッジTENGU』という宿泊施設があった。まさに、星が降って天狗が出てきそうな場所である。いつか改めて来るべき場所だと思っていた。

17時ぐらいに四万十町を出発した。ちょうど四万十川を遡るように上流へと移動する。立派な川幅の四万十川はだんだんと細くなり、四十川ぐらいになったところで、道は川沿いから離れ山の中へと入っていった。最後の追い込みとばかりに、傾斜は急になって、ちょうど日没時に四国カルストに到着した。

車を止めてまずは腹ごしらえをした。途中で買ったおにぎりを頬張る。5月とはいえ標高が高く寒い。携帯用のダウンジャケットを羽織り、見晴らしのいい高台へと移動した。360度すべてが空、南側には勇壮な四国の山並みが広がり、北側は石灰岩と低木が混ざるカルスト地形が広がる贅沢な風景だ。

カメラを取り出して三脚をセットした。星空の写真など今まで撮ってこなかった。一体どれぐらいのシャッタースピードか、ISOかといった星空撮影の基本がわからない。


30 F4.5 ISO 200 / Canon 5D MarkⅡ+ EF70-300mm

とりあえず、飛行機などを撮って試行錯誤する。30秒シャッターを開けて撮影する。飛行機は規則的に点滅するので、撮ると点線になる。何がどこから飛んでくるかわからない。望遠レンズをつけていたが視野が狭いため、標準レンズに付け替えた。


30 F4.0 ISO 200 / Canon 5D MarkⅡ+ EF24-105mm

月が出てきた。しかも満月だ。美しいと思う反面、あまりに明るく星が見えにくくなってしまう。


30 F4.0 ISO 200 / Canon 5D MarkⅡ+ EF24-105mm

左から右に横切る光は点滅していなかった。UFOだろうか、それとも人工衛星だろうか。直線的な動きではある。


8.0 F5.6 ISO 1000 / Canon 5D MarkⅡ+ EF24-105mm

飛行機が来た、しかし、もしかしてUFOかもしれない。撮影した写真を確認すると点線なので飛行機だ。夜が更けてきた。風が冷たい。誰もいない。不安になる。

「UFOは神様みたいなもので、私たちを見守ってくれている」

そういつも思ってはいるが

「連れ去られてしまうのではないか」

恐怖心を払拭しきれてはいなかった。複数人でUFOを呼んでいる時は、私以外の参加者がそういう気持ちを抱くので、私はそれを打ち消す側にいつも回る。しかし、一人だとその恐怖心は大きくなってくる。今まではみんなとのU活であったが、これは孤独なU活だ、しかし、私の使命でもある。UFOの写真で宇宙の存在をみんなに知らせるのだ。


5.0 F5.6 ISO 1000 / Canon 5D MarkⅡ+ EF24-105mm

空は暗くなり、星が増えてきた。南の空に急に光が生まれた。何か動いているぞ、飛行機のように点滅していないし、一直線ではなく、ぐるぐるぐるとトグロを巻くように動いている。私はカメラを向けて慌ててシャッターを切った。


5.0 F10 ISO 1000 / Canon 5D MarkⅡ+ EF24-105mm

その光は南へと移動し、途中で消えた。生き物が生まれ、蠢き、消えていくような、機械ではなく生物的な動きであり、何か意志を持っているような不思議な光だった。これ以降は特に異変もなかった。寒くなり、腹も減ってきたので撤収をした。


4.0 F5.6 ISO 200 / Canon 5D MarkⅡ+ EF24-105mm

満月がうろこ雲に隠れている。寒さでこわばった身体を溶かしてくれるようにあたたかかった。私はカメラを車に置いてから、自転車を取り出した。小さな自転車を車に積んでいたのだ。そして、満月の高原を一人でサイクリングした。

「わ、これETやん!そのまま月まで飛んでいけそうやん。これ動画で撮って『まるでETみたい』ってSNSあげたらバズるやつやん。でも、誰も撮ってくれる人おらんやん。それ自撮りするってなんかきもいやん。お、崖あるやん。このままジャンプしたら飛べるんか、飛べるんかおれ、宇宙までいけるんちゃうん」

そう思ったが崖の近くでブレーキを握った。I can fly で窪塚洋介になるところだった。


6.0 F4.0 ISO 1000 / Canon 5D MarkⅡ+ EF24-105mm

車に戻り、ダウンジャケットを脱いで、帰り支度をしていると、2つの光が目のように私を見つめていた。しばらくすると左の光は消えた。まるでしっかりと帰るところを見届けているようだった。

不思議な光はなんだったのだろう。ホテルに戻り「四国カルスト UFO」で検索すると、検索すると記事が出てきた。あまりにそっくりなので鳥肌が立った。ここにはこのUFOがいるということだ。https://web-mu.jp/paranormal/10518/

ここでUFOが撮れたということは、私はUFOを撮ってよいと宇宙に認められたのだ。これから本格的にUFOの撮影を始める。

 
 

日下慶太

日下慶太

KEITA KUSAKA
コピーライター・写真家・コンタクティ・シーシャ屋スタッフ
1976年大阪生まれ大阪在住。自分がどこに向かっているかわかりません。著作に自伝的エッセイ『迷子のコピーライター』(イーストプレス)、写真集『隙ある風景』(私家版 )。連載 Meet Regional『隙ある風景』山陰中央新報『羅針盤』Tabistory『つれないつり』。佐治敬三賞、グッドデザイン賞、TCC最高新人賞、KYOTOGRAPHIE DELTA award ほか受賞。