採U記

第7回  八百万の神は空より来る

日下慶太

神様がやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ! 冬の気配が少しずつ増してきた11月初旬、私は仕事で島根にいた。旧暦では「神無月」だが、出雲だけは全国から神様がやってきて出雲大社に集まるので「神在月」となっている。ちょうど神様が出雲へ到着する日に「神迎祭」という出雲大社の神事があると地元の人に誘われて、大社から西1kmほどにある会場の稲佐の浜へ向かった。

日本海に面し、建御雷之男神(たけみかづちのおのかみ)が大国主(おおくにのぬし)に国譲りの交渉の舞台となったやんごとなきビーチである。500人ぐらいが神事の始まるのを今か今かと待っている。私たちは砂浜の斜面に海を向いて腰を下ろした。少し高くなっていて見晴らしがよい。右前方には注連縄で四角形に区切られた場所があり、そこで火が焚たかれて神事が執り行われている。

神様は船で上陸するのか、船に神主が乗ってやってくるのか、なんて思っていると、同行の人がなにかふわふわとしたものを中空で見たという。ドローンかとも思ったが、こんな神聖な場所にそんなものが許されるわけはない。ちょっと待て、今日はそんなつもりではなかった。今回は神事を見に来たのである。

気になったので空に注意を向けていると、白い光がふわふわと動いている。飛行機だとすれば、ライトが複数あって規則的に点滅するはずである。人工衛星にしてはまっすぐではなく、ふらふらと進んでいる。そして消えた。祭りの様子を撮るために一眼レフカメラを持ってきていたので、UFOを撮ってみようと思った。砂浜に三脚を立ててカメラを向けた。

数秒間シャッターを開けて撮った。光は線となってカメラに映りこんだ。数分ごとにその光は見えた。光は海から出雲大社の方へとほぼやって来ている。最初は私たちだけが騒いでいたが、周囲の人々も異変に気づいて「あの光は何?」と騒ぎ始めた。

少し落ち着こうと、海とは逆の方角を見ると光るブーメランのようなものが2体、西から東へとジグザグに動いている。鳥にしては大きすぎる。そして、速すぎる。

「おくれる おくれる〜」

まるで八百万の神々の会合に慌てて向かっているようだった。カメラに手をかけると、出雲大社の上空で二つの光は一つになって消えた。残念ながら急すぎて撮影はできなかった。

神事が終わって参拝客は浜を離れた。私たちは、まだ何か見られるのではないかとその場に残った。しかし、パタリと見えなくなった。神様はもう到着されたのだろう。私たちも出雲大社へと移動した。

出雲大社にやってきた八百万の神が泊まる「十九社」の前で手を合わせた。神々はたくさんいるが部屋はあるのだろうか。個室なのだろうか。

「神様は宇宙人ですか?」と尋ねると

「今日は移動で疲れたから明日にしてくれ」

と言っているようだった。

参拝を終えて駐車場に向かうと、神楽殿の前で参拝客が列を作って、宮司の千家尊祐さんと記念写真を撮っていた。神代より続くやんごとなき家系、私もせっかくの機会なのでと並んで写真を撮ってもらった。撮影に浮かれて「空の光は八百万の神でしょうか?神は空からやってくるのでしょうか?」と聞くのを忘れてしまったことが悔やまれる。

毎年、神在月に行われる出雲大社での会合に、八百万の神は日本各地から飛んで来る。「久しぶりにみんなに会える」と楽しみにくる神もいれば、「ああ、毎年めんどくせ〜」といやいや来ている神もいる。空を横切る光を見ながらそう思った。では、その神とは何なのか、どうして、空を飛んでこれるのか。「神様は宇宙人ですか?」私が神に問うた答えは私の中ですでに出ている。

 
 

日下慶太

日下慶太

KEITA KUSAKA
コピーライター・写真家・コンタクティ・シーシャ屋スタッフ
1976年大阪生まれ大阪在住。自分がどこに向かっているかわかりません。著作に自伝的エッセイ『迷子のコピーライター』(イーストプレス)、写真集『隙ある風景』(私家版 )。連載 Meet Regional『隙ある風景』山陰中央新報『羅針盤』Tabistory『つれないつり』。佐治敬三賞、グッドデザイン賞、TCC最高新人賞、KYOTOGRAPHIE DELTA award ほか受賞。