採U記

第6回  宇宙人の翻訳者は私に語りかける

日下慶太

着陸できるか不安になるほどの大雪の青森空港に到着し、山間の道を通りながらバスで弘前へと移動した。大雪の中で車が動き、各家庭が軒先で雪かきをしている。毎日が通常営業していることに感動を覚える。弘前駅から奥羽本線に乗る。老女が2人が向かいの席に座っている。何をしゃべっているかまったくわからない。「んだ、にだ」といった語尾が聞こえてまるでハングルのようだが、こんな老いた韓国人が2人で日本を旅するわけはなく、おそらく津軽弁だろう。寒さのために口を開かず話すとこのような話し方になるのだろうか。

大館に到着すると待っている人がいた。永松さんという私が新入社員の時に面倒を見てくれた先輩で、今は会社をやめて湯の駅「おおゆ」という道の駅の駅長になっている。「ここでUFOを呼んでみないか?」という誘いを受けて、まずは下見にきたのである。車で現地へと向かった。

湯の駅おおゆは最近できたばかり、隈研吾建築の洒落た道の駅である。建物の西には大きな芝生の広場があり、そこでUFOを呼ばないかということになったのである。

ただ空地があるからUFOを呼ぶわけではない。秋田県鹿角市大湯、ここは日本でも類稀なるミステリースポットなのである。大湯ストーンサークルは国内でも最大規模の縄文遺跡だ。雪で埋もれて見れなかったけれども。

その北に鎮座しているのが黒又山である。地元では「クロマンタ」と言われアイヌ語で「神の山」を意味するそうだ。日本最古のピラミッドと言われている。確かに美しい二等辺三角形をしている。実際に地質調査が行われ、木々の下には階段上の石が積まれていることが確認された。掘り起こそうとすると、関係者が謎の死を遂げそうだ。

写真を撮っていると地元のおじさんが現れた。

「何してるんだ」
「黒又山を見にきたんです」
「ああ、たまにそんな人がくるねえ」
 このおじさんであれば大丈夫だろうと私は判断した。
「UFO見たことありますか?」
「ああ、見たことあんぞ。クロマンタの上にずっと浮かんでたぞ」

永松さんに連れられて、地元に「鹿角不思議研究所」というものがあるから挨拶に行こうということになった。サーフィンでいきなりよそ者がビーチに入っては気まずいので、まずはローカルに挨拶にいくみたいな感覚だろうか。

K所長という白髪の男性が出迎えてくれた。日本有数のミステリースポットだけに、地元で様々なことを調査したり、イベントを開催している。UFOを鹿角で何度か呼んでおり、一緒にUFOを呼ぶこととなった。来夏にイベントをすることを取り決めて大湯を去った。

8ヶ月後、再び大湯へ戻ってきた。大阪では聞くことのないヒグラシが鳴いている。前回来訪時は雪で見えなかったストーンサークルが姿を現していた。日差しは強いが湿気がなく、大阪に比べたら楽園のようである。

ここに来る前に、行ける時は今しかないと、八戸の三社大祭、弘前のねぶた、五所川原の立ちねぶた、青森のねぶた、西馬音の盆踊りと取り憑かれたように祭りを見てきた。お祭り気分で私は大湯にやってきた。

柱が何本か立っている。日時計か何かだろうか。この石が数千年も前のものだと思うと興奮せずにはいられない。

大湯の環状列石から見る黒又山である。ここに縄文の集落があった。当時の石段が積み重ねられたピラミッドの姿を想像する。宗教的でもあり、権力の象徴であった教会の尖塔がヨーロッパの町ではどこからも見えたように、この集落からは権力及び神秘の象徴として黒又山が見えたのだろう。

UFOを呼ぶ前にご挨拶をせねばと永松さんと一緒に黒又山を参拝する。道路脇に車を止め、少し歩くと入口が見えてきた。そこから細い林道に入る。クマが出てもおかしくないということで手を叩きながら歩く。なだらかなピラミッドであるからだろうか傾斜は低く楽に歩ける。

20分ほど歩くと頂上についた。台形のように平らになっていて、小さな祠がある。この下に何かが埋まっているということなのだろうか。急に日が射してきた。

UFOが着陸するためじゃないかと思うほどに、上空がぱっかりと空いている。何か来ないかと待っていたが、見えたのは6組のつがいの蝶だった。

昼過ぎから雨が降った。不安定な天気だった。イベントが始まる前に晴れていき、黒又山の方向に虹が出た。まるでイベントを祝福してくれているようだ。日が落ちるのを待つ。一体、何人来るかと不安だったが50人ほどが広場に待機している。

まずは、K所長の出番である。しっかりと勝負服で来ている。

K所長は工事用のライトを持ち込み、二重の円を作った。そこでみんなが手を繋いた。

「ドゥーン バーン ドロローン」

シンセサイザーで不思議な音を再生した。5分ほどでK所長のパフォーマンスは終わった。

思っていたよりも早く終わったので私は準備ができていなかった。焦って心を落ち着かせる。まずは、私はいつもエンバーンでやっていることを一人でやる。

「エン バーン エン バーン」

「エン」にあわせて頭の上で手を円にして、「バーン」で手をYの字に広げる。はじめは照れながらやっていた人たちも、だんだん楽しくなってきたのか声が大きくなってきた。みんなの動きがあってきた。

「それではそのまま時計回りにまわってください」と私は指示をした。

「エン バーン エン バーン」

参加者が盆踊りのように円を描きながら歩き回る。

「あ、逆回りだ」

と言っている女性がいて、それをK所長のところに伝えに行った。

「逆回りで回ってください」

K所長は、肩にかけた拡声器で指示をした。K所長、ここはおれの番だ。勝手に指示をするんじゃない。どういうことだ。すると、UFOが現れた。

スタートして30分もたたないうちにたくさんの光る発光体が現れた。色々な方向に動いては消えた。このブレはぼくが動いているのではなく、光が動いているからなのである。

写真のような白い光が多かったが、大きな鳥のような、三角形のものが3つ連隊で飛来してそのまま消えた。飛行機であれば音が聴こえるはずである、鳥ならばそこで消えるわけはない。

撮影後に大きなパソコンの画面で見て気づいたのだが粒子がトーラス状になっている。こんなこと今までなかった。

およそ1時間ほど、謎の光が出ては消えた。参加した学生が「UFO楽勝だわ」とつぶやくほどにたくさんのUFOが見えた。最初は大騒ぎしていた観客もだんだん飽きてきて緊張感が途切れた。

イベントは一旦締めて、その場で残りたい人だけでU活をすることになった。私はさっきの女性が気になったので声をかけた。小柄でショートカットでメガネをかけた女性である。見た目からは奇抜、どスピそうといった感じではない。

「あの、K所長にどうして逆回りと伝えたんですか?」
「宇宙人がそう言ったの」
「宇宙人の声が聴こえるんですか?」
「今日はね、宇宙人に翻訳の仕事に行きなさいと言われたの」
「翻訳?」
「そう。宇宙人の声をあなたに翻訳して伝える役目」
 確かに、私は宇宙人の声はきこえない。
「誰も知り合いがいないけど勇気を出してきて大館からここに来たの」
「どんな宇宙人があなたに声をかけるんですか?」
「グレイみたいなやつ。私、チップ埋められてるの。だから、きこえる」
「え! そうなんですか」
「あ、もうすぐしたら母船がでてきそう、あの雲に隠れてる。出るかな出るかな」

雲の方を見たが少し雲が明るい気がする。しかし、気のせいのような気もする。

「宇宙人はよろこんでるの、こんなみんなが楽しそうにUFO呼んでるから。ケイタさん、そういう場を作るのがあなたの役割。あなたにしかそれはできないから。私はそういうことができない。私の役割は宇宙人の声を伝えること」
「そうなんですか」
「あ、待って、いま、またなにか、きこえる・・・宇宙の司令官、アシュなんとかが、スターシードを・・・・」

急にそこにいた別の女性が口を割った。

「それは、宇宙の司令官アシュタールがスターシードを蒔いた」ってことでしょ?」
「え、それってどういうことですか?」

私はその女性に尋ねた。

「地球は今危機を迎えていて、その危機を乗り越えるようにするために人間に『宇宙の種』を蒔いたのね。その人たちをスターチャイルドって言うの」
「あなたも宇宙人の声が聴こえるんですか?」
「ええ。ケイタさんの役割はまさにさっき言っていた通りよ」

なるほど、そうか。2人から同じことを言われるということは私には役割があうのだろう。私もスターチャイルドということなんだろうか。こういうことを続けろということか。

そんな宇宙人との会話をよそに、このイベントを俯瞰していた永松さんは

「これは祭りの原型だな。みんながぐるぐると輪になって踊りながら宇宙と交信してる。盆踊りってこういうことをしてご先祖さんを呼んでるのかもな」

と語った。

確かに私が見てきたばかりの西馬音の盆踊りと近いものがあった。霊か、宇宙人かの違いはあるが、何か見えない至高の存在に向かって念じて、それに地上に来てもらおうということは、確かに変わらない。

長年この地で不思議を研究し、UFOとのコンタクトを試みているK所長が
「こんなにすぐに、しかも、こんなにたくさん出るケースは珍しい」

とのことだった。クロマンタの力だろうか、縄文の力だろうか、そこに居合わせた人々の力だろうか。

私の役割は宇宙より与えられていた。初めて示された大いなる存在からの道。神の声を聞いた聖者のように、自分が直接その声を聞いたわけではない。完全に信じ切れてはいない。しかし、今後の人生でこの役割を遂行していくことは間違いない。

日下慶太

日下慶太

KEITA KUSAKA
コピーライター・写真家・コンタクティ・シーシャ屋スタッフ
1976年大阪生まれ大阪在住。自分がどこに向かっているかわかりません。著作に自伝的エッセイ『迷子のコピーライター』(イーストプレス)、写真集『隙ある風景』(私家版 )。連載 Meet Regional『隙ある風景』山陰中央新報『羅針盤』Tabistory『つれないつり』。佐治敬三賞、グッドデザイン賞、TCC最高新人賞、KYOTOGRAPHIE DELTA award ほか受賞。