能勢妙見山から2年後、また『のせでんアートライン』が開催されることとなった。前回のパフォーマンスが好評ということもあって、今度は兵庫県猪名川町にある大野山(おおやさん)でイベントをすることになった。『宇宙へヤッホー!大野山大宇宙祭』と題し、私たちエンバーンはUFOを呼ぶこととなった。
しかし、私は不安であった。前回ははっきりと見えたわけではない。しかも、前回よりも大規模である。私たちが今回のメインである。全く来なければ、私たちの責任である。というのもあって、UFOが呼べそうな人を呼ぼうと、以前、ロフトのトークイベントで仲良くなったグレッグと、宇宙に近いオニちゃん(佐伯真有美)を呼ぶことにした。二人ともミュージシャンであるので演奏をしてもらうのだ。
イベントの2週間ほど前に、家族で沖縄に行った。今帰仁村のビーチで夜を過ごしていた。子どもが寝静まり、嫁と二人で話していた。「イベント大丈夫かなあ。UFOくるんかなあ」と不安をこぼすと、海の上空に火の玉のような質感の白い光が現れて反時計回りに円を描いて消えた。残像が残っていた。「○」だ。
会場の大野山の標高は753mと京阪神周辺ではかなり高い。山頂に天文台とキャンプ場がある。紫陽花の名所であり、サザエさんのオープニング映像にも登場する。
前日から現地に入り設営にとりかかる。山頂では360度景色を見下ろすことができる。北は綾部と福知山、東には亀岡、西は篠山の山並みが広がる。南には煌々とした、悪の帝国のような大阪平野が見渡せる。梅田のビル群からあべのハルカスまでもが見える。
上空には満天の星空。山頂の猪名川天文台からはいくつか新しい惑星が発見されている。場所としては完璧だ。
ちょうど日が落ちようとする頃に北の空が光った。UFOに敏感になっていたので「UFO」だと思いたかったが稲光だった。綾部や福知山を直撃しているであろう雷が光の筋となってくっきりと見える。落雷はずっと続いている。贅沢な光のショーを数十分は見ていただろうか。
夜が耽けると、東の空で稲光が光っていた。しかし、その光とは別に、空全体が緑色に光る現象が起きていた。稲光かと思った。しかし、東の空の稲妻と違って音はまったく鳴らない。稲光もどこにも見えない。ただ空が緑色に光るだけだ。準備は夜中まで続き、雷雨がこっちに来ないかと恐れていたが、まるで守られているかのように大野山は静かだった。ただ、緑色の光だけはずっと続いていた。映像チームとして参加していた柴田剛はこれもUFOによるものだと言っていた。
大宇宙祭当日となった。まずは画家の柏木辿が宇宙人へ向けての地上絵を早朝より描きはじめた。
子どもたちと宇宙服や、宇宙語の曲や、宇宙人に向けたダンスなどをワークショップでつくっていった。
日が暮れた。いよいよ本番が始まる。雲の中から夕日が放射状に広がり、山頂を優しく照らしている。まるで天国のようだった。そこに殴り込みにきたかのように電飾を施したステージが設置されていた。
最初の催し物『宇宙人への一発芸』が始まった。宇宙に向かって叫ぶ男、サラリーマンの忘年会のような宴会芸のようなどうでもいい歌、ジャグリング、3日前に男に振られた女性が歌う失恋の歌など、飛び込みで様々な芸が宇宙に向けて披露された。佐伯慎亮が半裸で法螺貝を高らかに吹き、妙見山の副住職である植田観肇がステージに上がってお経を奉納しようとした時だった。
夕暮れの空に謎の発光体が現れた。飛行機かと思ったが、まるで比較せよと言わんばかりに近くに飛行機が飛んでいた。飛行機とそれとはまったく異質なものだった。
光を失いつつある夕暮れの空をバックにオニちゃんこと、佐伯真有美の歌が始まった。美しく力強い声は宇宙へ向けての美しい祈りのようで、夕日に溶けていった。夜のとばりが降りようとするときにまた謎の発光体が現れた。今度のものは同じ場所にいながら少し移動しては、光り、消え、また光った。まるで人々の心に呼応するようだった。
神田旭莉とめりんぬからなるセクシー茶番ユニット『蝶惑星』。天空に向かって股を開いては閉じた。山頂は笑いに包まれた。まるで天の岩戸に隠れた天照大神をおびき出そうと、ストリップを披露して神々の笑いをとったアメノウズメのようだった。
グレッグの演奏が始まった。ライアーという弦楽器で、宇宙と人間の感性のチューニングを合わせていった。人の心を宇宙へ開かせるような不思議な音だ。グレッグが3曲目の音楽の演奏をしている時、柴田剛が天空に「何かいる」と指差した。天空を光がぎゅーっと横切った。人工衛星のような動きだったが、一直線ではなくゆらゆらとうごめいていた。そこにいた100人ぐらいの人全員が目撃をした。光はどんどん現れた。まるでパチンコで確変が起きたように、UFOがどんどん出た。そこに飛行機が3機やってきた。見たことのないシルエットで、まるで怯えて固まっている魚の群れのように固まって飛んでいる。その距離感は民間機ではありえない。軍用機だ。これがきてから、急に曇りはじめ何も見えなくなった。UFOが出ると、戦闘機が出動するという話を聞いたことがある。レーダーにでも出てきたのだろうか。
その後はわれわれエンバーンであった。もうすでに謎の発光体が来てくれていたので気が楽だった。大量得点をもらったピッチャーのようにのびのびと演奏をした。初めは曇っていたが、会場のテンションに呼応するように次第に雲は晴れていった。おバカで奇妙で宇宙に向けられた私たちの演奏は会場を一つにした。踊り、手を取り、円になった。この日に向けて作った『宇宙へヤッホー』という曲で、みんなが「ヤッホー!UFO!」と歌った。世界は完璧だった。
私たちは演奏に集中して気づかなかったが、エンバーンのライブ中に何か不思議な光が撮影されていた。これは私が沖縄で見たものと似ていた。沖縄からこの光が来たのだろうか。それともこの光は私を見守っていてどこにでも出現できるのだろうか。
老いも若きも夜空を見ながら「あれ飛行機? UFO?」と話している。今見ているものを信じるか、信じないか。自分の感覚を信じるか、人が言っているから信じるか。それは今までにない体験であり、アートイベントにふさわしいものであったように思う。
後日とあるテレビ局が別の取材で猪名川町を訪れ、地元の子どもに「夏休みの楽しかった思い出は?」と尋ねると「みんなUFOを呼んだこと」と答えが返ってきた。それに驚いたテレビ局から、番組で紹介させてほしいと依頼があった。
子どもたちとその母親が大野山頂の出来事を楽しそうに語っていた。地元の反応は気にはなっていたのだが、楽しんでくれていたようである。
UFOとは一部のオカルトファンだけのものと思っていたが、意外にポピュラーである。UFOを呼ぶというとみんな目を輝かせる。UFOを見たとカミングアウトする人もいる。UFOを特別なものではなく、身近なものにすることが私の使命なのかもしれない。
(写真/槻木ヒロシ ai7n 楯まさみ 柴田剛 兼元rascal)